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何でもない日の何でもないデート

Amaro4%Dolce96% それはうららかな昼下がりの事。 「アリーシャ!今度のお休みデートしよっ」 「やだよ」 レオンからストレートに投げられたお誘いは三遊間を抜ける綺麗な拒絶で返されてしまった。 「……何で!どうして!?」 たっぷり47秒沈黙した後レオンが縋るようにアリーシャの肩を掴んで揺する。けれど半泣き状態のレオンにアリーシャが冷たい視線を送る。 「だってレオンとデートするとロクな事が起きないもん」 それだけ言うとそっぽを向いてしまう。 「そんな……アリちゃんと楽しい時間過ごして……」 危ない目や寂しい思いをさせて来た事は無い、そう自負するレオンが尚も食い下がると両の手首を思い切り掴まれる。見上げるアリーシャの視線はどこまでも冷ややかだ。 「今まで何してきた?」 「アオカンしてー、無理やりホテルに連れ込んでー、あと……」 静かだが怒気を孕んだ声音に気圧されてつらつらと今までの悪行を吐露する。 「それを僕が全面的に楽しんでたとでも?」 「部分的には楽しんでくれてたかなー、と………ぎゃあっ!」 余計な一言で掴まれた手首を更に強く握られる。 危険な目には合った事は無いが恥ずかしい思いは散々させられてきたアリーシャが思い切り睨む。 普段のツッコミ状態では無く、ぶちギレモードに入ったアリーシャは怖い。投げ飛ばされ無いだけまだマシかもしれないがそれでもレオンを萎縮させるだけのオーラは纏っている。 「……ごめんなさい」 自然と謝罪の言葉が出てしまう。 「とにかく、もうレオンとデートしないから」 投げ捨てるように手を払うとアリーシャは部屋を出て行こうとする。 「うそっ………ちょっ………待っ!!」 こうなるとは微塵も予想してなかったレオンが慌てて引き留めようとする。彼にとってデートしないと言われた事は絶縁宣言にも等しい。 「お願い!!絶対何もしないからーー!」 恥も外聞も捨ててレオンが縋る。普段の余裕は何処へやら、今にも泣き出しそうな顔でアリーシャにしがみ付く様は恋愛百戦錬磨とは程遠い。 「はーなーせー!」 けれど今回はアリーシャの方も中々引かない。思い出して怒りが再燃したのか体格差のあるレオンを引き剥がそうと必死だ。 「一生のお願い使うから!」 「子供かっ!?」 最早どっちが13歳で22歳か分からない。どうにか引き剥がすと今度は肩にのし掛かられた。 「アリちゃんと楽しいデートがしたいだけなのっっ」 その『楽しい』にアリーシャは散々酷い目に会わされて来たのだが。さめざめと訴えるレオンにいい加減攻防にも疲れたアリーシャがため息を吐く。 「本当に変な事しない?」 折れてしまう辺りアリーシャの方が大人だ。いや、このまま拒否を続けても多分亡霊の様にレオンが付き纏う未来しか見えない。ならば諦めるしかないだろう。 「しない。変なことしない!」 こちらは子供帰りでも起こしたかと思う程アリーシャの言葉を反芻している。 「じゃあ今度のお休みに………………本当に変な事しないでね」 「うんうん」 ようやく離れたレオンが嬉しそうに頷く。 「ところで、変な事ってどんな事?」 至極真面目に聞いた筈なのにレオンはこの後アリーシャから平手打ちを何故か喰らう羽目になってしまった。 迎えたデート当日。2人は大きな商業都市に来ていた。 「この後どうするの?」 まだ疑っているアリーシャがそれとなく尋ねる。行程に変な所があれば踵を返して帰る積もりだ。 「んー。買い物してご飯食べて映画観てー。あ、アリーシャなにかしたいことある?」 慌ててアリーシャが首を降る。デートと言うモノは今一つ理解出来ていないがそれでも至極まっとうなプランに聞こえる。嘘さえ吐いていなければだが。 「じゃあまず洋服でも見るか。アリーシャはこの辺り来た事ある?」 「うん。この前八雲と来てー」 そこまで言うと歩いていたレオンがピタリと止まってしまう。 不思議に思って顔を覗くと人差し指を唇に当てられた。 「あのねアリーシャ。デート中は他の男の名前を呼ばないのが暗黙のルールなんだよ」 「そう……なんだ。ごめん」 真面目な目線にアリーシャも素直に謝る。それにしてもそんなルールがあったなんて、八雲には悪い事をしてしまった。 以前八雲と来た時にレオンの話も楽しそうにしてしまっていた。確かに今思うと複雑な表情を浮かべていた気もする。 (他の男の事考えるのもホントは嫌なんだけどね) 何となくアリーシャが考えている事が分かったレオンが不服そうに口を尖らせる。 デート場所が被った事も嫌だが先を越された事に苛立ちを覚える。あの男は何かにつけてレオンの先を掠め取って行ってしまう。 (いいもん。ポチなんか霞む位楽しくしちゃうから) 子供の様に拗ねながらレオンはアリーシャの手を引いたが恥ずかしいのか直ぐ離されてしまった。 「うーん……」 レオンと一緒に入った洋服屋でアリーシャは思い切り顔をしかめる。 「気に入った服無かった?」 レオンの問いにアリーシャは顔をしかめたまま首を降る。むしろあり過ぎるのが問題だ。 「どれが良いのか……」 正直どれでも良い、と言うのがアリーシャの本音だ。お洒落とは縁遠い生活を送ってきたアリーシャにとって洋服選びはコストパフォーマンスに重点が行ってしまいがちだ。 「じゃあ、これ!」 嬉しそうにレオンがシフォンのドレスを差し出す。 「だからって性別まで飛び越える積もりはないよ」 一刀両断にアリーシャが切り捨てる。レオンと八雲のお陰が最近ツッコミのレパートリーが充実してきている。 「冗談です。真面目にするから選ばせて下さい」 軽蔑寸前の冷たい眼差しに泣きそうになりながらレオンが手を合わせる。本当かといぶかしんでいる間にレオンが嬉々として洋服を持ってくる。 「これとか動きやすくて良さそうだよ。あとこっちの方が大人っぽく見えるかな。それとー」 あっという間に幾つもフルコーディネートが出来上がる。促されるように試着するとどれもサイズから何まで完璧で、お洒落に無頓着なアリーシャでも着飾るとはこう言うことなのかと少しだけワクワクした気持ちになった。 「んー……」 少しだけ大人びた姿の鏡に写った自分を見ながらアリーシャは思案にくれる。 折角レオンが選んでくれて気に入ったのがあったのだから買いたい所だが安くはない買い物だ。お小遣いを貯めているとは言え大分躊躇う。とは言え仕事上ちゃんとした服も一揃え欲しい所だ。 (でも直ぐ小さくなるよね) アリーシャとしてはこんな身長で立ち止まっている積もりは更々無い。目標は大きくフィオナ位になる事だ。 八雲とレオンが聞いたら号泣しそうなプランを思い描きながら悩んでいるとレオンが耳元に顔を寄せる。 「可愛くおねだり出来たら買ってあげるよ」 「かわいっっ!!」 驚いて試着室の壁に激突しそうになる。値段の事で葛藤している事などお見通しなのだろうレオンが期待に満ちた目で笑う。 「おねだり……て」 提案されても何をどうすれば良いのか皆目検討も付かない。そもそもレオンにねだる言われも無い。 困惑した表情を浮かべるとレオンは益々楽しそうに笑う。 「昔よくしてくれたじゃん。ご本読んで、とか。一緒に寝てとか」 懐かしむように話すレオンに対してアリーシャは真っ赤になってしまう。細かい記憶は残っていないがあの頃はレオンに甘えっぱなしだった。だからレオンの言っていることを完全に否定出来ないし口振りからすると多分本当にあったのだろう。 「その節は……………失礼しました」 子供だったとは言え自分の幼すぎる行動が恥ずかしくて堪らない、レオンだって子供だっただろうに嫌な顔一つせず付き合ってくれていたのだ。頭を下げると撫でられてしまった。 「何か……居心地が悪いと言うか……腑に落ちないと言うか……」 ブッラータをフォークで突っつきながらアリーシャが渋い顔をする。 「どうしたの?」 飄々と尋ねるレオンにアリーシャは益々顔を渋くする。結局先ほどの服は言いくるめられてしまいレオンが払ってしまった。今食べている昼食だっていつの間にか会計が済んでいた。 「そこまでして貰う言われは無いよ?」 過剰接待されるとかえって落ち着かない。そう答えてもレオンはきょとんとしている。 「何か裏があるんじゃないかと思って?」 「そうじゃなくってー。特別な日でも無いのに……」 誕生日でさえ何年も何かされた事が無いのにこうも色々されては戸惑うばかりだ。 けれどレオンは不思議そうな顔をしたままだ。 「アリーシャにとって今日は特別じゃないの?」 「それは……っ」 聞かれると困ってしまう。確かに何時もとは違う事だらけだ。 「あ、でもアリーシャが居てくれるなら毎日特別な日かー」 妙に納得するレオンを前にアリーシャは頭を抱えてしまう。どうしてこの男はこう恥ずかしい台詞を事も無げに言えるのだろう。 「それにアリーシャの貴重な時間を貰ってるんだからこれ位当然でしょ?」 その言葉に頭を抱えていたアリーシャが今度は不思議そうな顔をする。貴重と言えばレオンの方が時間が無いのではないか。 実質仕事を動かしているのはレオンとフィオナだ。経営から経理、営業等をほとんどこなして更には家事やアリーシャの勉強まで見てくれる。時間など幾らあっても惜しい筈なのにいつも何でも無いような顔をしてからかってくる。いつか何処かでばったり倒れてしまうのでは無いかと時折心配になるのだが。 首を傾げて瞳を覗くとレオンが苦笑いをする。 「本当は怖いだけなのかも、な」 「怖い……?」 生まれてこのかた怖いものなどありませんよ、と言った佇まいに見えるのだが。アリーシャが更に首を傾けるとレオンが躊躇いがちに口を開いた。 「アリーシャがオレを置いてどっかに行っちゃうんじゃないかって。だから繋ぎ止めて置きたくて形振り構わずに甘遇(かんぐう)してるのも」 どことなく寂しげな声にアリーシャは驚いて目を大きくする。 「僕は………置いていったりしないよ?」 余りにも予想外の言葉にどう答えて良いか分からずレオンの手に自分の手を重ねる。 「怖がらせてごめん……」 言いたく無い事を言わせてしまったような気がして謝る。レオンと離れて何処か遠い場所へ行く。そんな事考えもしなかった。いつも側にいるのが日常になっていたらからだ。けれど良く考えればそれは当たり前では無い。そんな日が来てしまうのは確かにアリーシャにとっても怖い。 「そんだよな……。アリーシャはそうだもんな」 寂しい気持ちに駆られているといつの間にか兄の顔で笑うレオンが手を握り返していた。 店を後にして人通りの多い道を歩く。レオンの手がアリーシャの手を握ろうと触れると驚いて体を固くしてしまった。その様子を見て手は直ぐに離れてしまう。 (あ…………) 一瞬の出来事なのに胸を引っ掻かれたような感覚をおぼえた。変な事はしないと約束したとはいえ今のは酷い事をしてしまったのでは無いか。恋人なのだから手を握る位普通だろうに、羞恥心がレオンの優しさを塗り潰してしまう。 (手、握れば良かった?) けれど今さら握り返す事も出来ずに後悔だけが残る。 落ち込んで周りの景色もろくに見えなくなる程トボトボと歩いていると目的の映画館に着く。 「映画館、来たこと。は?」 先程と何も変わらない様子でレオンが聞いてくる。その姿に少しだけ安堵した。 「えっと前にーっっ!!」 言いかけて慌てて口を塞ぐ。思わず「八雲と来た」と言ってしまう所だった。さっきの事に気を取られて暗黙のルールを忘れそうになる所だった。 「ふーん」 けれどレオンは理解してしまったようで少し不服そうに顔をしかめたがそれ以上は何も言わなかった。 「何かつまむ?」 売店前でレオンが話す。館内に入った時から甘い匂いが鼻をくすぐっていたがアリーシャは首を降る。これ以上レオンに散財させたくないのもあったが。 「前に観た時夢中になりすぎて全然食べられなかったから」 前回の失敗談を思い出してアリーシャが落ち込む。映画が終わったあと空のトレーを見て良く皆食べきれるなぁ、と感心しっぱなしだった。 (たまにいるよね、こう言う子) 思わずレオンも生暖かい目で見てしまう。こればかりは性格なのでアドバイスしようが無い。 「あ、レオン何か食べるなら出すよ!」 意気込んで提案したもののレオンは困ったように頭を掻く。 「一人で飲み食いしてもな……」 考えれば至極真っ当な話だ。折角思い付いた名案を早々に棄却する。 (もしかしなくても……デート向いてないのかも) 朝から逐一(つまず)いてばかりだ。酷く落ち込みながら席に着くとレオンが何かに気づく。 「全然何も言わなかったけどこの映画で大丈夫だった?」 尚もかけられる優しい言葉にアリーシャは益々落ち込んでしまう。どうやったらこんな風に気遣って()り気無くたち振る舞えるのだろう。 「ん、大丈夫」 せめてこれ以上レオンが気遣わないように何気ない雰囲気を演じてみたがレオンには見破られていたのかも知れない。 映画が始まるといつの間にか鬱々とした気分を忘れる程内容に夢中になる。 吸血鬼の少女と青年の恋物語なのだが障害を乗り越えて二人はようやく結ばれる。けれど時間の流れが違う少女と青年はやがて年が離れて行く。訪れる最後の時を前に少女と恋人はお互いの想いを確かめ合う。 (あ……) 気付くと感情移入していたアリーシャから涙が零れ落ちる。このまま泣いていても暗闇で気付かれないだろうかと思った瞬間、頬に柔らかい感触がした。驚いて目を開くとレオンがハンカチで涙を拭いてくれていた。 暗い中でも自分の顔が赤くなるのを感じる。こんな場所で大声を出すわけにもいかずアリーシャは恥しさで小さくなるばかりだった。 「はあ……楽しかった」 映画館近くのカフェでレオンが満足そうに笑う。それに対してアリーシャの表情は複雑だ。 「ちゃんと観てた?」 何だか上映中ずっと視線を感じていたのだが。 「あらすじ言おうか?」 レオンの答えにアリーシャは首を降る。彼の事だ、きっとあらすじだけでなく監督の作風や来歴果ては出演者のゴシップまでつらつらと話しだすだろう。 「それでー」 笑みを浮かべたままレオンが首を傾げる。 「今日1日オレ変な所無かった?」 先程まで横に降っていた首を今度は何度も縦にする。 何もかもが瀟洒(しょうしゃ)で逆に自分の方がおかしな行動を取っているのではないかと不安になるくらいだ。 「良かった。じゃあ、もう少しだけ付き合ってくれる?」 頷くアリーシャの心には朝の(いぶか)しんでいた気持ちが嘘のようにワクワクした気持ちでいっぱいになっていた。 「わぁ……」 広々とした公園を前にアリーシャが嬉しげな声を上げる。商業施設の近くにこんな大きな場所があるとは知らなかった。 よく整備された歩道と樹木が綺麗なコントラストを描いていて脇にはこちらもよく整えられた花壇が並んでいる。 木々のざわめきを聞くとそれだけで落ち着いた気分になれた。 「どこ行きたい?」 「え………と」 本当は全部見て回りたい所だがもうすぐ日が落ちてしまう。幾つか見たい場所を絞る。 楽しそうに地図を見ているアリーシャにレオンも笑う。 「良かった。アリーシャの好きなところに来れて」 優しい声に今度は胸を掴まれた感覚をおぼえる。レオンは今日一日ずっと自分を気にかけていてくれた。 それなのに自分は何も返せてない。歩きながら嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちで胸が半分ずつ埋まる。 思いきって手をレオンの腕へ伸ばす。けれど感覚が分からなくてレオンの手では無く袖を掴んでしまう。この先どうして良いのか分からなくて困っていると極自然な手付きでレオンが握り返してきた。 (あ……………………) そう言えば小さい頃はこうやってよく手を繋いでいた。こうして手を引かれて歩くと安心出来てどんな場所にでも行ける気がしていた。 (どうして恥ずかしくなっちゃったのかな………) 一通り公園内を歩いて傾いた日を背に噴水広場のベンチに座る。 「楽しかった?」 「うん、今日が終わるのが惜しいくらい」 楽しそうに答えたアリーシャがそこでふと考える。何の気なしに明日もレオンが側に居てくれると疑わない自分がいる。 でもそれは永遠では無い。ずっとずっとこの先も同じと言う訳にはいかない。 さっき観た映画が思い出される。レオンとは10近くも年が離れているだからいつかお別れの時が来てしまう。いや、もしかしたら度重なる実験でボロボロになったアリーシャの体が先に消えてしまうのかもしれない。 いつか来るその時『死を思え(メメント・モリ)』とは良く言われているがそれでも考えたくはない。 きっと不安そうな顔で見詰めていたのだろうレオンが優しく笑って頭を撫でる。 「たとえ過ごした時間が短くても貴方は一瞬を永遠に変える魔法を私にかけた。だから私がいなくなってもこの幸せは永遠に私達の心には残るでしょう」 映画の中で青年が最後に行った言葉をレオンが(そらん)じる。恥ずかしいような嬉しいような気持ちで満たされてうつむくといつものからかう様な笑みに戻る。 「オレとずっと一緒に居てくれる気になった?」 びっくりしてアリーシャが顔を上げる。遠い先のお別れの前に5年後の約束があったのを忘れていた。 アリーシャが成人になるまでにずっと一緒にいたい人を決める。でもレオンを選べばきっと八雲はいなくなってしまうだろう。死別では無いけれど2度と会えない気がする。八雲を選んでもきっとレオンは同じことをするだろう。 そう思うとどうしても選べない。皆で一緒に過ごす時間にすっかり慣れてしまっていた。 「ごめん。まだ………」 甘えていると分かっていてもまだ答えは出したくなかった。アリーシャが謝るとレオンは「そう」と言っただけで顔を離してしまった。 (あれ?) もっと押してくるかと思ったのだが怒っているのだろうか。 「レオン、今日いつもと何か違う」 恐る恐る尋ねるとまたいつものレオンに戻る。 「デート用のレオンさんはおしとかやなんですよ」 おどけた様子で話す姿に思わず笑ってしまう。 「やっぱり笑った顔の方が好きだな」 「え?」 アリーシャが聞き返すと不意に辺りが明るくなる。 噴水がライトアップされて幾つもの光が波紋に浮かび上がる。噴水の水が形を変える度に光も沢山の形を描いていく。 「わあ……」 感嘆の声が出てしまうほどその光景は美しくアリーシャの心に焼き付いていく。 「水に飛び込んじゃダメだよ?」 「飛び込まないよ!子供じゃないんだから」 いつの間にか『いつも』に戻っていた2人の前に一際大きな水柱が上がる。その瞬間アリーシャにある考えが浮かんだ。 「今度は僕が何処に行くか考えるね」 少しでもレオンの負担を減らしたくて出た言葉だが言われた本人はポカンとしている。 「それって……またデートしてくれるって事?」 「あ、そうなるのか」 今さら気付いたアリーシャにレオンがちょっと転けるたが直ぐに気を取り直して抱き着いて来る。 「すっっごい楽しみ」 「その……まだよく分からないことばっかりだからあまり期待しないで」 慌ててハードルを下げると更に強く抱きしめられた。 「じゃあ2人で考えよっか?」 楽しそうに出された提案にアリーシャも小さく頷く。日は殆ど沈み青紫色の空には既に星が瞬いている。 何でもなくて特別な今日が終わる。けれどそれは寂しい事ではないと思った。大切な人が側に居てくれれば一瞬も永遠になるのだから。

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