3 / 25

第3話

次の日も熱が下がりきらず休んだ俺は、あの醜態を晒した3日後に登校することになったのだが。 「は…?しばらく一緒に学校行けない?なんで?」 昨日の夜、正純に電話して熱のせいでよく覚えていないけどお見舞いのお礼と明日登校することを伝え、あの事が学校で騒ぎになってないかとか俺は登校しても大丈夫なのかとかグチグチ話していれば、唐突にそうだったと軽い調子で言われて脳みそが揺れるような衝撃が走った。 『昨日1年の子に告られてさ、断ったんだけど恋人になれるチャンスを下さい!ってうるうる涙目で言われちゃったら無下に出来ないじゃん?とりあえず1週間お試しで付き合ってみて、やっぱり付き合えないと思ったらそこで終わり。でも俺が少しでもいいなと思えば1週間ずつ延長して、付き合えるか付き合えないか俺の心が決まったら言ってください、って言われた』 「あ、ああ、そう…」 ……なんか、胃がムカムカする。 今まで何度も何度も覚えてないくらい正純が告白された話なんて聞いてるのに、こんな風になったのは初めてだ。もちろん正純に彼女が出来た時も感じたことはない。なのに今はモヤモヤした何かが渦巻いて、言いたい言葉があるような気がするのに出てこなくて気持ち悪い。 『でまあ、明日から一緒に登下校したいって言われたからしばらくは別々な。病み上がりなのにすまん』 「ほっ、ほんとにな!こっちは恥ずかしすぎて熱出すとかさらに醜態さらしてるんだぞ!?そんな俺を一人で登校させるとか、お前は鬼か!親友に対する思いやりってもんはないのか!」 『心外だなあ、俺ほどコウの事思ってる奴はいないと思うぞー?ちゃーんと梶と梅ちゃんに一緒に行ってやってって頼んどいたから。明日はなまる公園に8時な』 じゃ、ぶり返さないように早めに寝ろよーと言って正純は一方的に電話を切った。規則的な音を垂れ流すスマホを耳から離し、そのままベッドに倒れこむ。モヤモヤとムカムカがさっきよりも増してる気がして、とりあえず気を落ち着けようと長く息を吐く。 別に一緒に学校に行けないからって何だっていうんだ。今までだって正純が部活の朝練で別々だったこともあるし、お互い彼女と登校したことだって……。 「……あ、あれ…?彼女と登校したこと、あったか?」 彼女がいた時のことを思い返してみるが、下校したことはあっても一緒に登校した記憶がない。正純の場合も然りだ。別に約束したから一緒に登校しているとかそういう訳ではなくて、小学生の頃から正純が俺を迎えに来るのは当たり前の事で、彼女が出来ても正純はいつもと変わらず迎えに来るし、それを俺も特に不思議には思わなかった。 「…て事は、アレか」 それが当たり前じゃなくなってムカついてるってか?なんかそれって……女々しいヤツみてえで気持ち悪っ! このまま考えてたらまた熱が出ると、勢いよく起き上がり明かりを消して頭まで布団をかぶる。スッキリしない気持ちを抱えたままギュッと目を瞑った。 ―――――――――― 翌朝、消化不良を起こしてるような気持ち悪さと一緒に目が覚めた。 玄関で靴を履いていれば母さんに正純くんのお迎え待たなくていいの?と不思議そうに聞かれて、ついムッとしてしまった俺はいつもいつも正純と行くわけじゃねえよ!と言い捨てて荒く玄関を飛び出した。 「おはよーコウ!」 「おはよー」 8時少し過ぎてはなまる公園へ着くと、すでに梶と梅ちゃんの姿があった。ぶんぶんと大きく手を振ってる梶と軽く手を挙げてる梅ちゃんに小走りで駆け寄って俺も手を挙げて応える。 「おはよ。なんか正純が勝手にごめんな?」 「別に、道1本遠回りするぐらいなんて事ないよ。体調は大丈夫?」 「とりあえずな。ありがとう」 「コウと学校行くとか新鮮だー。でも、よかったよ!いつもの青白さに戻って!」 ガシッと肩を組んできた梶を睨み付ける。俺の眼光に気付いた梶は、それでも悪びれた様子もなく怒っちゃいやんとかほざきながら頭を撫でてきたのでその手を思い切り叩き落とす。 「いたーいっ」 「うっせ!お前全っ然心配してねえだろ!?」 「えー!?してるしー!だからいつもの顔色に戻ってよかったねって言ってんじゃん!」 「お前の場合は俺が自分の肌の色嫌ってるの知っててわざと言ってんだろーが!」 「……てへっ!て、わっ!ぐえぇっ」 「この木偶の坊がっ!!てめえなんか髪に火ぃつけて松明にしてやるわ!」 怒りのままに梶の胸倉を掴んで揺すっていれば、後ろから羽交い絞めにされて止められた。威嚇する犬のように咳き込む梶を睨んでいれば、焦った梅ちゃんの声でどーどー!と馬のように窘められる。 「コウ落ち着いて!そんな興奮したらまた熱出るかもしんないし、そしたらいろいろ大変だし…。ね!とりあえず学校行こうっ」 「…?お、おう、ごめん」 俺を押さえつけていた腕を解くと梅ちゃんはさっさと歩いて行ってしまう。 大変って何がだ?とは思ったけど、基本的に真面目な梅ちゃんのことだからこれ以上休んだら授業についていけなくなる事を言ってるのかなと勝手に結論付けて後を追った。 そんな俺の隣に梶が並ぶ。そこに居るのが正純じゃない事に引っかかりを覚えて、知らず眉間にしわが寄った。 「睨まないでよー。てか、俺にも謝って!」 「なんでだし。あ、梶がちゃんと謝ったら謝るよ」 「めんごー!」 「死ねっ」 「なんでー!?」 絶対に死にませんー!とか喚いてる梶はまるっと無視して梅ちゃんの隣に並んで学校へと向かった。 やっぱり服を後ろ前に着てるようなちょっとした違和感があって落ち着かなかった。

ともだちにシェアしよう!