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第16話

―――――――――― ざわざわガヤガヤ五月蠅い店内で、ソファー席に座って山盛りになったポテトが減っていくのをぼんやり眺める。 結局、カナちゃんのお願いにわかったとハッキリ言う事なんて出来なくて、やってはみるけど…と濁した返事をしてそのままバーガー屋まで逃げてきた。カナちゃんからしてみたら俺の態度はスッキリしないだろうとは思う。 けど……俺だって、好きだし。 カナちゃんが言ってる事もわかるし、言う通りにしてあげた方がちゃんと応えたいって言ってた正純の為にもなるのかもしれない。でも、もし本当に正純の頭の中が俺でいっぱいだったら……嬉しすぎて死ねそう。そこに恋愛感情がないのはわかってるけど、もうそれだけで幸せだ。 そう思った次に襲ってくるのは、カナちゃんに対する罪悪感と自己嫌悪。 あんなに正純の隣に並べるように努力して一途に想ってる子に対して、報われるはずのない想いを捨てられずに協力が出来ない俺はなんて見苦しい男なんだろう。もしかしたら、カナちゃんの方が男らしいんじゃないか…? ゴンッ、とテーブルに額をぶつけてダメ男な俺に気合いを入れてみるが、ただ痛いだけで何も変わった気がしない。 「ちょお、なに!?自傷行為はんたーい!」 所謂お誕生日席に座ってるカン太がポテト片手に大声で言ってくるのがうるさくて、頬杖をついてそっぽを向く。 「コウ、冬休みの補習そんなイヤなの?」 「そりゃあ、イヤでしょーよ」 補習が好きな奴がどこにいるんだと、隣の梅ちゃんを虚しさ全開の目で見る。苦笑しながら、まあ食べなとポテトを差し出されたので素直に齧り付く。 「あ!俺もやりたい!ほらコウちゃん、ポテトでしゅよー」 ゆらゆらと視界の端でポテトが揺れる。お前は何がしたいんだとカン太を睨みつけてから、大きく口を開けてポテトを頬張りながらそのまま持ってる指に噛みついてやった。噛みつくと言っても甘噛み程度だが、カン太はぎゃあっ!と真っ青な顔で飛び上がって、俺の指がー!と叫びながらトイレにダッシュした。その猿みたいな背中をポテトをもぐもぐしながらしてやったり顔で見送っていれば、前方から声がかけられる。 「……ねえ、アンタ達って外でもそんな感じなの?」 「あっ、あーんにっ、指パク…っ!はわわっ」 渋い顔をした金森と、口元に両手を当てて何やら興奮している櫻井さんだ。 お店に着いて金森達もいる事に驚いてる俺に、2人が俺の分を払ってくれたんだと梅ちゃんから聞かされた。あの時にお詫びで奢ると言ったのは社交辞令ではなかったらしく、女子に奢られるのなんて初めてでまだ戸惑いが消えない。というか、目の前に金森と櫻井さんがいるこの状況に慣れなくて戸惑ってる、ってのが大きい気がする。 「いずみはすぐ興奮しない」 「そんな事言われたって…っ、無理よ茜音(あかね)ちゃん!」 金森の盛大なため息が聞こえた。 ここで初めて知ったのだが、2人は幼稚園からの幼馴染らしい。活発的な金森と、大人しい櫻井さん。今は大人しい印象もなくなりつつあるが、ボケとツッコミみたいな感じでちょうどバランスが取れてるように感じる。 「そんな感じって、どんな感じ?」 「どんなって…」 梅ちゃんが不思議そうに聞く。俺もそんな感じと言われてもどの事を言われているのかピンと来なくて首を傾げる。ポテトをつまみながら金森を見ていれば、若干言いづらそうに視線を彷徨わせて口を開いた。 「……男同士であーんしたり?指まで噛んだり?」 「え、」 そこ?昔から食べさせられたりとか正純にやられてたし、指まで噛むのもおふざけの一環だからなんも思わなかったけど、周りから見たら変なのか? 「あー、んー……まあ、俺たちの中じゃ普通のことかな?俺とカン太と吉野と梶は中学一緒でさ、カン太以外はみんな弟とか妹いるわけ。で、カン太って子供っぽいじゃん?なんか弟扱いしちゃって世話やいちゃうんだよね。高校入ってコウ達と仲良くなってもそれが抜けなくってさ、いつもの調子でコウにあーんした時はやっちゃった!って思ったよ。普通だったら引くだろうし。だから、当たり前のようにコウが食べた時は正直びっくりした」 え、そうなの?そこ、引くとこだったの? 言われてる俺の方がびっくりして目を大きくしてれば、梅ちゃんに苦笑された。まあ、確かに梅ちゃん達に会うまでは正純以外の友達はそんな事してこなかったけど、引く程の事でもないと思ってたから全然平気だった。 「なっ、長瀬くんはなんで引かなかったのっ?」 前のめりで聞いてきた興奮気味の櫻井さんに思わず仰け反る。 「なんでって、昔っから正純にやられてたし…」 「やっぱり杉山くんなのねっ!はああぁ~っ」 恍惚とした声を出した櫻井さんは、そのままソファーに崩れ落ちた。梅ちゃんと2人ぎょっとしたが、金森に気にしないでと言われてしまっては何も言えない。櫻井さんのイメージが良いのか悪いのかどんどん変わっていく。 「てか、そんな変な事?」 「変っていうか、女子は結構食べさせ合いっこみたいな事やるけど、男子ではなかなか珍しいと思う」 「やっぱ変なんじゃん…」 「いや、でも見てて気持ち悪いとかそんなんじゃないよ?アンタ達だから大丈夫っていうか、めっちゃ仲良いの知ってるし、学校でも結構イチャついてるし」 その言葉に正純との王様ゲームの時の事とか、テスト勉強の時の事とかを思い出して顔が一気に熱くなる。それを傍から見たらイチャついてると思われてるのなら恥ずかしすぎて引きこもりたい。 「イ、イチャついてなんかねーわ!」 「どう見たってイチャついてんじゃん!梶となんか特に!」 「……梶?」 あれ、正純とじゃない…? 「梶はコウのこと大好きだもんなー!暇さえあればコウ~ってハートマーク飛ばして飛びついてるし!」 いつの間にか戻ってきたカン太が手を制服で拭きながら揶揄うように言う。それでも梶とイチャついてる自覚のない俺は、言われている意味がさっぱりわからなくてポカンとなる。 「あんなベタベタする梶なんて見たことなかったから俺たちも驚いたよね。まあ、コウの反応が面白いからだろうけど」 「なー!でも前に夏のあっつい時にさ、体育の授業中に梶がコウの体操着脱がそうとしたじゃん?」 「…?そんなことあったっけ?」 全然覚えてない。そもそも暑いのが嫌いで夏はほとんど死んでるから余計に記憶に残ってない。 「あったって!んでまたやってらあって笑ってたんだけどふと正純見たらさ、真顔でコウ達のこと睨んでんの!あれめっっちゃ怖かった!!ぞわわって鳥肌立ったし!そんな正純見ちゃったからその後のお前らの絡み見る度ハラハラしてたんだからな!でもそれからは正純も普通に笑ってたから、ちょうどその時だけ虫の居所が悪かったんだろうねー。だから俺は思ったよ!正純は怒らせちゃいけないって!」 「あー、私もそれは思う。杉山って大抵の事には怒んなそうだけど、お気に入りの物とか壊された時ヤバそう」 「わかるー!あ、コウは正純が怒ったとこ見た事ねえの!?」 「正純が…?」 怒ったとこ……。 「………ないな」 「つまんねー!そんだけ長い付き合いでないとか逆におかしくね!?」 「ねーもんはねーんだから仕方ねーだろ!」 「ねーねーうっさいー!」 「お前がな!」 さらにチビになってしまえと頭を鷲掴んで沈めるように力を入れる。痛い痛い喚いてるカン太を無視してさらに沈めてやる。 「…俺も2人とは高校からの付き合いだけど、もし正純がキレるとしたら……その原因、1個しか思いつかないかも」 「それなに?」 今後の為に聞いておこうと梅ちゃんに聞き返すがなかなか返事が帰って来ない。視線を俺の手を剥がそうと必死なカン太から梅ちゃんに移せば、目の前に人差し指があった。 「……なに?」 「だから、原因」 「は?」 原因が人差し指?どういう事だ? 意味がわからないと顔を歪めれば、梅ちゃんは仕方ない奴というように息を吐いた後、俺の額に人差し指をトンと当てた。 「そんなん、コウしかないでしょ」

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