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第17話

「………俺?」 うん、と大きく頷かれる。 俺が、原因……うーん。 天井を見上げて、盛大に首を捻る。 「俺がどんだけバカだったとしても、正純キレなくね?キレるっつーより注意って感じで怒られるけど。でも、もし本気で正純がキレたら、俺呆れて見捨てられんだろうな!…っ、ハハッ!そしたら俺を慰める会開けよー!」 自分で言った事に自分で傷付いて誤魔化すように空元気を出す。 もし正純に見捨てられたらショックでまた寝込むわ、絶対。……でも、そうしてくれた方が諦めはつくのかもな…。 「「いやいやいや」」 四方向から揃って強く言われ、ビクリと肩が跳ねる。櫻井さんもいつ復活したのか、俺を見る目は真剣そのものだった。 「杉山くんが長瀬くんを見捨てるなんて、この先何があってもないと思う」 「うん、杉山の中で見捨てるって選択肢なさそうだし」 「コウの事見捨てる正純なんて、そんなん正純じゃねーもん!」 弾けたように笑ったカン太に肩をパシリと叩かれる。ポンポンと反対の肩を叩かれ、そっちを見れば梅ちゃんが優しく微笑んでいた。 「もしそういう事が起きたとしても、それは自分よりコウの為を思っての事だと思うよ。てか、キレる原因ってコウ自身にって意味じゃなくて、コウに何かされたらって意味ね」 「ああ、そっち……も、なくね?てか、なんでみんなそんな自信満々に見捨てないって言い切れんの?そんなんわかんなくね?」 全員から正純が俺を見捨てることはないって言われても、どうしても信じきれない自分がいて食ってかかるように言ってしまう自分に嫌気がさす。 「俺らだってコウの事見捨てる気なんてそもそもないけどさ、正純のコウへの気持ちは俺らとは別格っていうか、友達以上家族未満ってかんじ?」 「えー、ほぼ家族じゃね?弟思いな兄ちゃんって感じするけど」 「ああ、まあ親目線も入ってそうだしほぼ家族だね」 友達以上家族未満……嬉しいような悲しいような複雑な気分だ。 でも梅ちゃんたちから見ても特別仲良く映ってるのは素直に嬉しい。そう見えてるから、正純が俺の事を見捨てる訳ないって言い切れるんだとわかった。俺だって家族に何かされたらブチ切れるし。それに、 ーーすごく、ホッとした。 俺が恋愛対象として正純のことが好きだっていうのが伝わってなくて。 突然、ガタッ!とすごい勢いで誰かが立ち上がった。びっくりして音のした方を見れば、驚愕した顔の櫻井さんが立っていて全員目が点になる。 「そこは友達以上恋人未満でしょ!?」 「いずみ!」 「むぐっ」 金森に口を塞がれて無理矢理座らされた櫻井さんはその手をはがそうともがく。それを呆気に取られて見る俺たち。 友達以上恋人未満って……え?俺の気持ち、櫻井さんにバレてる…? ……いやいや、んなわけない。大丈夫。…大丈夫。 「……ねえ、ちょっと前から思ってたんだけどさ、櫻井さんって……腐女子?」 ピタリ。 と梅ちゃんの言葉に固まる2人。それが質問に対する答えを物語ってたけど、俺は腐女子ってなんだっけ?と顎に手を当てて考える。 「俺の妹も腐女子だからさ、なんか言動が似てるなって思って。コウ、腐女子っていうのは男同士の恋愛が好きな子の事ね」 「……ほう」 男同士の恋愛が好き……って、え?そういう視点から見てるって事は、俺の気持ちもやっぱりバレてる…? タラリと冷や汗が項を伝った。 「はあ、やっぱバレるか……いずみは根っからの腐女子で、私はいつも話聞かされて無駄に知識はあるってだけだけど」 金森は櫻井さんから手を離すと、疲れたようにテーブルに肘をついてジュースを飲んだ。 「で、今の一押しが長瀬と杉山なんだって。妄想と現実がごっちゃになってて発言おかしいけど気にしないでやって」 ああ、妄想……って、俺と正純でどんな妄想されてんの!?なんか恥ずいんだけど! 「王様ゲームの後くらいからそうなのかなって思ったけど、それまでは全然気付かなかったよ」 「私と二人の時だけ腐女子解禁してたからね。王様ゲームの後のは、いずみの腐女子メーター振り切れた結果の暴走。中学の時の二の舞になるんじゃないかって、こっちはヒヤヒヤもんだったよ」 「……ごめんなさい」 しょんぼり肩を落として謝った櫻井さんに金森はひとつ笑ってから、それがいずみだしと背中を優しく叩いた。 「中学の時って、なんかあったの?」 カン太がポテトを頬張りながら聞く。お前が意外と驚かないのに俺は内心びっくりしてるぞ。 「……いずみさ、中学の時に腐女子って事が広まっちゃって、イジメられたんだよね」 「…っ!」 「女子は露骨にいずみのこと避けるし、男子は面白がって下劣なことばっか言ってくるし。私が何言っても聞く耳持たないから先生に相談して表面上は落ち着いたけど、結局卒業するまで2人で孤立してたよね。別に、どんな趣味してようが迷惑かけてないのにさ」 「そうだったんだ…」 「……」 俺は言葉が出なかった。イジメなんて今まで身近になかったし、2人がイジメの対象になるようには見えなかったから余計に驚いた。あまりしたくない話なはずなのに軽い調子で話してくる金森が、もう過去の事だと吹っ切れて話しているのか、ただ辛さを押し殺して話しているのかがわからなくてかける言葉が見つからない。 「ごめんね?こんな暗い話聞かせちゃって。イジメられてはいたけど、ずっと茜ちゃんが一緒にいてくれたからそんなに辛くなかったの。でも茜ちゃんにまでとばっちりが行っちゃってるのは嫌で、もう腐女子でいるのやめるって言ったんだけど、茜ちゃんって本当にカッコイイんだよ?私の事は気にしないで、好きなんだったら貫きな!ってバシーンって背中叩いて来たの。その時、このままでもいいんだって思えて嬉しかったな…。痛かったけど」 ーードクン ”好きなんだったら貫く” その言葉が俺の心にも深く突き刺さった。 報われない恋だと嘆いて悲観して、そのくせ終わりにすることも自分じゃ出来なくて。 正純を誰にもとられたくないって思ってるのに、幸せになってほしいと願ってる。 ちぐはぐな感情ばっかりでこの気持ちに対して後ろ向きなことばっかり考えてたけど、恋するのってそんなに暗いことばっかだったか? ――いや、楽しいこともあったはず。 だったら、もっとこの正純を好きな気持ちを受け入れて、前向きに考えればいいんだ。 この先が正純と別れてしまうような最悪な結果だったとしても、自分なりに後悔のない恋にしたい。 俺は、正純が好きだ。 この気持ちを貫いて、貫いて、貫き通してやる!! 「キングサンデー買ってくるわ!金森と櫻井さんも一緒に食べような!」 「は!?急にどした!?」 「コウ、絶対お腹壊すからやめといた方がいいよー」 「大丈夫!食える気しかしない!」 そんな自信満々に梅ちゃんの忠告を無視した結果。 1kgのサンデーに敵うはずもなく、カン太を巻き添えにして2人仲良くトイレの住人になった。 しばらくアイスは食わない!

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