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第20話
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終業式も終わり、正純以外のいつものメンツで昼を食べに行こうって話になって、それまでの時間を教室で駄弁ってつぶしている最中だ。
――正純は、至って普通だった。
冷たい瞳をしてたなんて嘘みたいに梶に対しての態度も全然変わらなくて、もしかしたら俺にそう見えただけだったのかもと今では思うようになった。
教室を出る時に、また連絡すると頭を撫でてった正純に自然と胸が高鳴る。口元もふよふよして必死に顔に出ないよう頑張った。頭を撫でられるのも昔からのことでなんとも思ってなかったのに、好きだと自覚してからはそんな触れ合いにさえ甘酸っぱさを感じてしまう。ときめきが止まらないってこういう事か。
今、正純はカナちゃんと一緒に帰ってるはずだ。
そりゃ面白くはないけど、前ほど嫌な気持ちにはならない。それもカナちゃんに気持ちを打ち明けて、それを彼女が非難せずに受け止めてくれたからだと思う。それに、俺の気持ちを知る2人の内の1人だからというのも大きい。
もう1人はこれから昼飯食いに行くっつーのに鮭のおにぎり食ってるけどな。
俺がジト目で見てる事に気付いた梶が、おにぎりを向けて食べる?なんて聞いてきたから首を横に振る。今食ったら昼食えねえわ。
そんな梶の態度も告白してくる前とあんまり変わらない。
が、触り方が柔らかくなったというか、優しくなったというか。肩に回してくる手も前みたく乱暴じゃないし。でも、新たに腰に手を回してくるようになったのはやめてほしい。毎回その手を抓って叩き落としてるのに全然めげないからこっちが先に折れそうだ。
……ん?それ待ちってことはない、よな…?
訝しんで梶を見れば、なんもわかってないような顔で二ッと笑ったのを見て、そんな事ないわと思い直した。
「正純はカナちゃんとどうすんのかねー?やっぱ決戦はクリスマスだよな!」
カン太が銜えてた棒付きキャンディを口から出して言って来たが、唾液がびろんって伸びて汚い。すかさずティッシュを差し出す梅ちゃんはまさしくオカンだ。
「カン太汚ねー!でもさ、なんか正純から恋してます!なオーラは全然伝わって来ないよな。好きになってんのかねー?」
「さあ?正純ってそういうの隠しそうじゃない?カナちゃんと2人きりの時は恋してますオーラ出してんのかも」
吉野と梅ちゃんがせっせと唾液を拭いてるカン太を呆れたように見ながら言う。バカな我が子を見守る親に見えたのは内緒にしとこ。
「確かに。恋してます!なんてオーラは感じねえよなー」
逆に俺からそのオーラ出てそうで怖いんだけど…。
「うーん…。今まで付き合ってきた子と一緒にいるの見てきたけどさ、正純って俺らといる時とあんま変わんねえよな!好きな子への特別扱いってより、ただより女の子扱いしてるって感じ」
言い終わって残ってるおにぎりを一気に口に入れた梶をみんなで見る。
「なんか梶が無駄に分析してる」
「しかも的得てて草ー」
「ほんと、見てなさそうで見てるよな。草草ー」
「草草草ー」
梅ちゃん、吉野、俺、カン太の順でおちょくれば、梶は急いでおにぎりをお茶で流し込んでそのままドンッとお茶を机に叩き付けた。
「ちょっと、そんな草生やさないで!教室が大草原なっちゃうから!アルパカ大群で来ちゃうよ!?」
そんな梶の叫びにシーンとなる俺たち。
ア、アルパカ……。
みんなで顔を見合わせ、次の瞬間、堪えきれずに爆笑した。
「ちょっ、アルパカって…!ハハハッ!」
「アルパカかわいいじゃんっ、ぶははっ!」
「あははっ!なんでアルパカが出てくんのっ」
「ぶくくっ、俺は逆にアルパカ来てほしい!ぶくくっ」
「はあ!?そんなん、アルパカの恐ろしさを知らないから言えんだって!」
「ははっ、じゃあ教えろよ。アルパカの恐ろしさってやつ」
笑いで体を震わせながら軽いノリで聞けば、真剣な顔した梶の手が伸びて来て顔を固定される。
ん?なんか、前にもこんな事なかったか…?
記憶を手繰り寄せてる間にも梶の顔は着実に近づいて来ていて慌てる。
「ちょ、おい!なにっ」
「アルパカは、間近で見るとめちゃんこ怖い」
再びシーンとなる俺たち。
きょとんと梶を見つめるが、本人はいたって本気らしく真剣な顔をやめない。
「……は?それだけ?――っ、いででで!」
思わず呟くと、拗ねた顔になった梶に両頬をぐいーっと引っ張られた。そんな伸びる方じゃないから結構痛い。
「それだけってコウひどいっ!あとは、くっせーツバ吐いてくる。あれマジで臭いから!くさや並みだから!くさや嗅いだことないけど!」
「俺もない!」
「俺もねえなー」
「俺も。出来れば嗅ぎたくないけどね」
俺もないわ!と勢いよく梶の手を引きはがし、ジンジン痛む頬を擦る。
「コウのほっぺ柔らかくなさそうだから痛そ!」
「コウ、肉付き悪いからね」
「コウは筋肉もないしな」
「確かに!でも手触りはよかったよ、コウ!」
「うるっせえわ!!つかそこの3人っ、合掌すんな!んでテメエはまた触ろうとしてくんじゃねえよっ」
梶の手を叩き落として完全に背中を向けて座る。痛む頬に手を当てても自分の手はやっぱり温かいから痛みが治まる気がしない。
正純が居たら冷やして貰えんのに……。
ふと思った事に、その言葉の意味を理解してピタリと体が固まる。ゆっくりと熱に浸食されるみたいに耳から頬にかけて熱くなってきて、思わず顔を手で覆う。
正純の手は冷たいから冷やすのにうってつけだけど!うってつけだけど…っ!
もう……触ってほしいの丸出しじゃねえか…。
ゴンッ、といつかのバーガー屋みたく机に頭をぶつける。誰か俺を地の底へと埋めてくんねえかな。
「ちょお、なに!?だから自傷行為反対だってば!」
「なに、補習のことでも思い出して嫌になったの?」
「それを乗り切れば初詣でうまい豚汁が待ってるぞ!」
「数学は俺も一緒だから大丈夫だって!英語も同じ日でしょ?梶子が終わるまで待っててあげちゃうっ」
ああ、補習のことなんてほぼ忘れてたのに…………あ。
のそりと起き上がって梅ちゃんを見つめる。
「梅ちゃん…」
「なに?」
小首を傾げる優しいお兄ちゃんな梅ちゃんの手を握って涙目で訴える。
「英語の課題やんの手伝ってください!」
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