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第2話

「おーい、牧原ぁ、生きてるかぁ?呼吸してるかぁ?」 いつしか人通りの少ない場所で足を止めていた秀介は、目の前で杉沢が手をヒラヒラさせていることに、ようやく気付いて瞬きを繰り返した。 「あ、す、すいません……あの、さっき杉沢さん、何て言いました?」 幻聴だ。 そうだ、そうに決まっている。 目の前の先輩がゲイだなんて話が、あってたまるかとも思う。 「俺、ゲイなんだけど」 「へ……?」 「そんなに信じられないモン?」 呆れたような笑みを浮かべる杉沢を見つめ、秀介はどうやら彼が本当のことを話してくれているらしいと理解しつつあった。 多分、世間ではこういうことを「カミングアウト」と言うのだろう。 「すいません……ちょっと……驚いてます」 「だろうな。俺も、自分がゲイだって知った時は、ビックリした」 「ずっと前から……なんですか?」 どのくらいまで深入りしていいのか分からないまま、秀介は思い付いた疑問を口にする。 「そ。気付いたのは高校生の時かな。共学だったのに、俺が好きになるのは男ばっかりでさ」 誰にも言えず、人知れず悩んでいた杉沢は、社会人になると同時にゲイバーに出入りするようになったのだそうだ。 「そこで、『ああ、俺はゲイなんだ』って実感しちゃったワケ」 「はあ……そういうもの……なんですか……」 「そう。それで、今から行きつけのゲイバーに行こうと思ってるんだけど、お前も一緒にどう?」 「は!?な、なんで俺が……!」 「ゲイでもないのに」と言いかけたところで、秀介は慌てて言葉を飲み込んだ。 「安心しろ、俺は『お前が好きだ』とは言わない」 「は……?」 「ああ、そこは警戒してなかったんだ?っていうかさ、俺は理解者が欲しいの」 「理解者……?」 杉沢によると、ゲイとはなかなか肩身が狭いものらしい。 適齢期になるのに彼女の一人もいないことを勝手に心配され、見合いをアレンジされてみたり、「嫁はまだか」、「孫の顔が見たい」とプレッシャーをかけられてみたり。 「まあ、カミングアウトだけしてれば、それでいいのかもしれないけどな」 「はあ……」 「でも、ゲイバーに集まってくる男って、結構ピュアなヤツ多いんだぜ」 「へえ……」 それは意外な話だなと、秀介は感心の声を洩らした。 杉沢はそんな秀介の反応に気を良くしたらしく、「だから社会勉強のつもりで、一緒に行こうぜ」と誘ってくれる。 そこまで言われてしまっては、秀介としても反論する気になれず、「分かりました」と応じて杉沢の後をついて行くのだった。

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