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第4話
店内は、薄暗くて賑やかだった。
だが、どこかさっきまで飲んでいた居酒屋とは違っている。
店が違うのだから、異なって当たり前だろうと思うが、何かが致命的に違うのだ。
なんだろう、答えが見付かっているのに、うまく言語化できない感覚だ。
「結構賑やかだろ?野郎ばっかだけどよ」
「あ、そうか……」
「ん?何だ、どうした?」
「いや、さっきまでいた店とは何かが違うって思ってたんですけど、女の人がいないんですね」
杉沢は、「当たり前だろ」と笑いながら、空いているテーブル席を指差した。
秀介は軽く頷いて彼の向かい側に落ち着く。
「いらっしゃいませ」
秀介と杉沢の目の前に、おしぼりとお冷が置かれると、唐突に肩を掴まれた。
「え……?」
肩に違和感を覚えて視線を上に上げれば、懐かしい顔が視界に入った。
「お前……!」
「霧島か!」と言おうとしたところで、響が「シッ」と唇に人差し指を当てる。
どうやら素性を知られたくないらしいと、秀介は察した。
それにしても、響に会うのはいつぶりだろう。
多分大学卒業直前の「お別れ会」で酒を一緒に飲んだきりなので、7ヶ月以上会っていないことになる。
秀介と響は、大学の同級生なのだった。
「ちょっといい?」
そう響が秀介に声をかければ、すかさず杉沢がテーブルの下で足を蹴ってくる。
秀介は、とりあえず響に「後でそっちへ行く」と目で合図をすると、先輩の話を聞くことにした。
「何なんですか、今思い切り蹴りましたよね?」
ああ、脛が痛い。
本当に痛くて、涙目になりそうだ。
「お前『謎の美少年』と知り合いなのかよ?」
「は?『謎の』……何ですって?」
「『謎の美少年』。さっきおしぼりとか運んでくれただろ?」
響のことかと、秀介は頷いた。
大学の同期だとは言わないが、知り合いであることは事実なので、イエスと答えておく。
「アイツはな、謎が多いんだ」
杉沢曰く、響は毎日営業時間中は、ずっとカウンターにいるらしい。
だがその目的は、謎なのだという。
酒は飲んでいるが、浴びるほど飲むのかと問われると、そうでもない。
毎日スコッチをグラス1杯だけ、ちびちび飲んでいるだけだ。
じゃあ客の中から男を物色しているのかと言えば、それも違う。
響は誰にも声をかけたことがないし、逆に声をかけられても、シカトを決め込むのが常だということだった。
「声を聞いたのだって、俺は今のが初めてだ。もちろん、誰かに声をかけるとこも、初めて見た」
杉沢はそう言うと、こちらに背を向けてカウンターに座る響に、視線を送るのだった。
なんだか「高嶺の花」みたいな話だなと、響を知る秀介は片眉を吊り上げた。
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