5 / 38

第5話

秀介が響の隣のスツールに落ち着くと、彼はスコッチのグラスを秀介の方へと滑らせてきた。 「スコッチ、飲めるよね?」 聞かれると、秀介はもちろんだと頷く。 大学最後の飲み会で秀介がスコッチに目覚めた瞬間を、響は見ていたはずだと記憶していた。 「なぁ、霧島?お前、なんでこんな店にいるんだ?」 「それは、俺がゲイだから」 「そう……だったんだ……?」 響としては、この性癖を大学卒業まで隠していたが、そこから先は特に秘密にしてはいない。 それに、今意中の人が隣に座っているのに、嘘を吐く気にはなれなかった。 「そうだけど、俺がここにいる理由は、実はもう一つあるんだ」 「へぇ……」 響はほとんど水状態になったスコッチを、一口舐めると、お手拭きで唇を拭った。 「俺ね、この店のオーナーなんだよ」 「は……?マジでか……?」 そう言えば、響は大学卒業後の進路を明かしていなかったなと、秀介はようやくそのことを思い出した。 だがまさか、ゲイバーのオーナーをしているとも思っていなかった。 「うん、マジな話。ここは両親が残してくれた店なんだ」 よくよく話を聞いてみると、響の両親は、彼が大学に在学中に、交通事故で亡くなっているとのことだった。 それから響の面倒を公私に渡って見てくれているのが、カウンターの向こうで調理に余念のない、武宮という老人なのだという。 「そうか、ご両親を亡くしてたのか……」 それは知らなかったと、秀介は眉根を寄せた。 「ああ、気にしないで……っていうかさ、牧原?」 「ん?」 「ちょっと……場所を変えないか?視線がうざったい……」 秀介が肩越しに店内を振り返ると、誰も彼もこちらを見ては、ヒソヒソと何やら話している。 杉沢の話は嘘じゃなかったのかと、秀介は軽く肩をすくめた。 「その方がよさそうだな。で、どこへ行く?この近くにいい店でもあるのか?」 「店じゃなきゃだめ?」 「ん?どういう意味だよ?」 実は──、と響は切り出した。 「俺の家、このバーの真上なんだ。何もない質素な部屋だけど、嫌じゃなければそこで話さないか?誰にも邪魔されないし……」 スコッチも置いてあるんだと言えば、秀介は「断る理由がないな」と、綺麗に笑った。 ドクン──、と響の鼓動が大きく脈打つ。 偶然出会えた初恋の人は、今も昔も素敵な笑顔を見せてくれる。 この笑顔が自分だけのものになればいいのにと、心から思うが、生憎秀介はゲイではない。 響の記憶では、大学時代に彼女がいたこともあったので、ノーマルだと考えていて間違いないだろう。

ともだちにシェアしよう!