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第6話

秀介と響は店を出ると、外階段を伝って2階へと移動した。 そして響の家の玄関前まで到着し、彼がキーホルダーから鍵を取り出し、それを差し込んで回す。 ガチャ──、と少し重い音を立てながら、玄関が外側に開かれた。 響が照明のスイッチを入れると、真っ暗だった部屋が明るく照らし出される。 秀介の眼前に広がったのは、だだっ広い空間だった。 仕切りも何もなく、1階のバーと同じ面積の広い部屋がある。 響の説明では、奥の方が居住スペースになっているようで、言われてみれば、テレビやソファ、ベッドやクローゼットなどが見て取れた。 「驚いたな……こんなに広い空間なのに、仕切りも何もないなんて」 「ホントは仕切ろうかって話もあったんだけど、面倒でね」 「お前って案外めんどくさがりなんだな?」 未だに半袖にジーンズを穿いている響は、きっと衣替えをしていないのだろうと、秀介は察した。 「分かるんだ?」 「その服装とこの家を見れば、何となく分かるよ」 ともあれ秀介は玄関で革靴を脱ぎ、響が用意してくれた客用スリッパを履いて室内に足を踏み入れた。 壁は四面ともコンクリートの打ちっぱなしで、この家の殺風景さを増長させているように見える。 居住スペースまで移動すると、響は「ちょっとソファに座ってて」と言って、秀介に背を向けてキッチンでスコッチの準備をし始めた。 5分ほど待っただろうか、気付けば秀介の目の前にスコッチのロックが置かれていた。 「この家、そんなに珍しい?」 響がずっと屋内を見回している秀介を見つめ、苦笑しながら訊いてきた。 「ああ……あんまり見ない造りだなと思って」 少なくとも巷の賃貸住宅に、こんな場所はなかったと話せば、響は少し戸惑ったように応じる。 「生活できれば、それでいいと思って、何もしていないんだ」 そんな響の言葉を聞くと、秀介は背筋を伸ばす。 やばい、何か響の心の琴線に触れることを口にしたかもしれない。 「変だっていう訳じゃないんだ。ただ珍しいっていうだけだよ」 慌てて取り繕えば、響は「気にしなくていいよ」と口角を上げた。 「なあ、霧島?」 「ん?」 また心の地雷を踏んでしまったらどうしようという思いはあるが、秀介は好奇心に勝てなかった。 「お前は、付き合ってる人、いないのか?」 「いないよ」 即答だった。 どう誤魔化そうかと考える素振りもなく答えたということは、本当に相手がいないのだろう。 「バーでは、随分注目されたじゃないか?そう言えば、『謎の美少年』なんて呼ばれてたぞ」 「周囲が勝手にそう呼ぶだけだよ。第一、俺は『少年』呼ばわりされるほど、若くないし」

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