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第7話
まあ、確かに「少年」呼ばわりされるほど、響は若くない。
だが、顔は「美少年」と言いたくなるほど、整っていて綺麗だ。
大学時代、随分モテていて、それでいて誰とも付き合わなかった響だが、よもやゲイだったとは。
「なぁ、失礼なこと訊いていいか?」
「どんなこと?」
「その……今までに彼氏っていうか……恋人がいたことはあるのか?」
響は「どうしよう」と内心慌てた。
そんな人がいたことはない。
だが、今目の前に響の初恋の人が座っていて、その人と二人きりの空間で酒を飲んでいる。
響は、ただ秀介との思い出を一つでも多く作りたいと願って、彼をこの家に連れてきた。
そのお陰で、「家で一緒に酒を飲んだ」という貴重な思い出が、心の中に残ることになる。
だから、秀介に「好き」だなんて言えないと思った。
「いないよ」
「ゲイって気付いたのは、いつ頃からなんだ?」
秀介は、段々「遠慮」という言葉を忘れつつあった。
なぜだか、響は秀介の質問に正直に答えてくれるような気がしているのだ。
「中学の頃かな。女子に告白されたのをきっかけに、異性を意識するようになったんだけどね……」
ところが、意識するどころかなぜだか嫌悪してしまい、じゃあ男子を見るようにしたらどうなんだろうと妄想してみたところ、そちらの方がすんなり受け入れられたのだという。
「そういう牧原は、どうして今日ゲイバーなんかに来ようと思ったの?」
「え……?」
不意打ちの質問に、秀介は言葉を詰まらせた。
なぜ、と問われれば、杉沢という先輩総務マンに連れて来られたから、と説明するしかない。
「ああ、一緒に来てた人か。あっちの人の顔は覚えてる」
「さすがだな」
「覚えないと、客商売はやってられないってね。あ、これは武宮さんの受け売り」
「何だよ、お前のポリシーじゃないのか?」
響が「俺はそんなに堅苦しく考えてないよ」と言って秀介を見つめれば、二人はどちらからともなくふっと笑い、それが合図であったかのようにスコッチをあおる。
「それで、牧原は、ここへ来てどう思った?もうたくさんだって感じ?」
「いや、そこまで否定的じゃない。でも、俺ゲイじゃないのに、ここへ来ていいのか?」
「ゲイじゃないのに」と聞くと、響の心の中が黒く染まるような気がした。
今、好きな人が目の前にいる。
手を伸ばせば届くような距離にいる。
なのに、心が遠い。
どんなに手を伸ばしても、届かない場所にあるかのようだ。
「俺の隣に座って飲んでればいいよ」
それでも、響は求めてしまう。
叶わない恋だと知っていても、いつか異性が秀介に近づいて響の前からかっさらってしまうとしても、この人の近くにいたかった。
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