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第9話

翌日──。 響の朝は、確実に秀介より遅い。 店が深夜の2時に閉店となり、閉めた後も武宮と片付けや掃除をしているので、部屋に戻る頃には、4時近くなっている。 それからシャワーを浴びて、眠るので、起きる頃には昼過ぎになっているのが常だ。 だが、この日の響は違った。 いつもなら昼過ぎまで眠っているのに、10時頃に目覚めてしまい、ベッドの中でスマホのLINE画面とにらめっこしていた。 メッセージを送るべきか、送らずに済ませるべきか──。 秀介は昨夜の別れ際、「LINEに電話番号を送ってくれ」と言っていた。 しかし、特にそんなものを送らなくても、LINEアカウントを知っていれば、無料通話ができてしまう。 秀介はこのことを知っているのか、いないのか。 あまりLINEを使わないと言っていたので、無料通話の機能を知らないとしても不思議ではない。 問題なのは、秀介が本当に響からのメッセージを待っているのかどうか、だった。 送った暁に、既読スルーされるのは嫌だし、その上返信が来ないなんてことになったら、もっと嫌だ。 「どうしよう……」 布団の中であちこち向きを変え、スマホを手にしたり手放したりしながら、響はひたすら考える。 だが、一人で悶々としていても、解決する問題ではなかった。 響が秀介のことを相談する相手として選んだのが、両親が亡くなった後親代わりとして響を支えてくれる、武宮だった。 ちなみに彼は響がゲイだとは思っておらず、突然のカミングアウトに驚いたようだった。 「へぇ、響君がゲイだったとはねぇ……」 とはいえ、相手はゲイバーで働いて数十年のベテランだ、今更「ゲイです」と言ったところで、殊更に驚かれることはなかった。 「お相手が昨日の彼か。カッコよかったよね。背が高くてさ」 武宮はカウンターでタブレットを片手にする響を見つめてきた。 「な、何……?」 「いや、響君と昨日の彼は、お似合いだったなと思ってね」 「や、やめてよ、武宮さん……牧原とは、まだそんなんじゃないし……」 そもそも自分の初恋が実るとは限らないのだと響が言えば、武宮も「違いないねぇ」と言って、厨房での仕込みに専念し始める。 そんな中、響はカウンターの下に隠し持っていたスマを手にし、秀介とのトーク画面を開いて自分の携帯番号を入力してみた。 何か文章は必要だろうか、それとも番号だけ送ればいいだろうか。 「あ……!」 だが、スマホをいじっている間に、無意識に送信ボタンを押してしまった。 響はゴクリと生唾を飲み込むと、しばらく送ったメッセージとにらめっこをするが、既読マークはつかなった。

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