10 / 38
第10話
それから、響は5分おき、否、1分おきに、LINE画面とにらめっこする羽目になった。
秀介は多分仕事中で、スマホチェックができていないんだ──。
分かっているのに、いつ既読マークがつくのか、あわよくば返信が届くのかと、気になって仕方がない。
お陰で武宮が厨房仕事の手を止めて、店舗経営のあれこれについて教えてくれている間も、タブレットにメモすることを失念する始末だった。
「ごめん、武宮さん……」
タブレットへのメモし忘れは、完全に響の落ち度である。
武宮は多忙な中教えてくれているというのに、一体自分は何をしているんだろう。
「たまには、そういうのも悪くないよ。響君は真面目だからねぇ」
そう言って笑ってくれるのは、武宮にとっての響が、まるで自分の子供のような存在だからなのかもしれなかった。
その頃秀介は離席してトイレの個室に入っていた。
少し前にマナーモードのスマホが内ポケット内で振動したので、きっと響からのLINEメッセージが届いたのだろうと、トーク画面を開いてみる。
「電話番号だけ……?」
まあ、昨日別れ際に「電話番号を教えてくれ」とは言ったが、実は知らなくてもLINEアカウントさえ知っていれば、無料で通話ができるのだと調べている。
なのでもっと別の、他愛のない話題でも振られるのかと思っていたのだが、少しアテが外れてしまった。
秀介は送ってもらった番号を、スマホの電話帳に保存し、個室から出た。
「あれ、牧原じゃん」
「あ……」
偶然にも、個室から出た秀介を待っていたのは、昨日ゲイバーへ連れて行ってくれた杉沢だった。
今日は朝からずっと忙しくしていたので、話すのは初めてだ。
「お前さぁ、あの『謎の美少年』とどこ行ってた?」
ちなみに、杉沢は、秀介が帰り際に店内を覗いた頃には、もういなくなっていた。
「いや、ちょっと近所の居酒屋に……」
響があの店舗の2階に住んでいるなど、口が裂けても言う訳にはいかず、秀介は曖昧に誤魔化した。
「やっぱ、あの子イケメンが好きなのかな?」
「は……?」
「いやさ、ほら、お前男前じゃん?んでね、店に集まってたヤツらと、『謎の美少年』は面食いなのかな、とか喋ってた訳だ」
まったく、余計な詮索をするものだなと、秀介は内心苦笑した。
とはいえ、よもやま話をしながら盛り上がっている面々の気持ちも、少し分かる。
響は際立った美貌の持ち主で、謎が多いので、あれこれ話したくなるのだろう。
「あ……いけね……」
杉沢を適当にあしらって自席に戻るが、響への返信をしていなかったことに、気付くのだった。
ともだちにシェアしよう!