11 / 38
第11話
秀介が響のLINEに返信したのは、受信してから数時間が経過した頃だった。
知らなかったのだが、LINEとは相手がメッセージを読むと、「既読」と表示されるらしい。
LINE初心者の秀介は、この機能が便利なのか不便なのか、よく分からなかった。
その頃、響は開店前の店内の掃除をしている時に、スマホが震えているのを察知し、慌ててモップを壁に立てかけて、LINEを開いてみた。
秀介からの返信だ。
『電話番号、ありがとうな』
書いてあったのは、それだけだった。
「どうしよう……?」
返信を心待ちにしていたのだが、いざそれをもらうと戸惑ってしまう。
このメッセージに返信していいのか、このまま終わらせるのか。
というか、秀介は今後店に来ることがあるんだろうか。
ゲイでない彼がゲイバーに来るためには、何か理由が必要になるんじゃないだろうか。
その理由というのが、「響に会うため」では、いけないのだろうか。
「分かんないや……」
響はそう呟くと、とりあえず返信をせずして、スマホをポケット内に戻した。
秀介が響から「店に遊びに来ないか」というLINEメッセージを受け取ったのは、ちょうど社食で杉沢とランチをしている時だった。
響に電話番号を教えてもらってから、1週間ほどが過ぎようとしている。
杉沢に「すみません」と言って、テーブルの下でスマホのLINE画面を開く。
『今日、店に遊びに来ない?』
書かれていたのは、それだけだった。
「杉沢さん、今日って残業の予定あります?」
「いや、ない。ていうか、今日は残業しちゃだめだっていう日だろ?」
「ああ、水曜日か……」
秀介の会社は、毎週水曜日がノー残業デーとなっている。
だから社員は就業時間を過ぎると、いそいそと帰っていく。
こっそり残業をしていると、人事の社員に叱責されるためだ。
「牧原、残業なんて考えるなよ?俺が怒られるんだからな」
「分かってますよ。ちょっと仕事の後に予定を入れるかどうか迷ってただけなんで、心配しないでください」
秀介はスマホをスーツの胸ポケットにしまうと、再び昼食を食べ始めるのだった。
響が秀介にLINEを送って、3時間が経過する。
やってしまった──。
あまりに会いたいからと言って、ゲイでもない秀介にゲイバーに遊びに来ないかと誘ってしまった。
返信が届かないのは、気分を損ねてしまったからだろうか。
それとも、単に仕事中だからだろうか。
「ああ、もう……送るんじゃなかった……!」
前回同様、やきもきしてばかりの自分が嫌だ。
自己嫌悪に陥りながらも、スマホだけはしっかり握りしめて、心のどこかで期待している自分がもどかしかった。
ともだちにシェアしよう!