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第13話

2階の響の部屋の中は、先日来た時と何一つ変わっていないようだと、秀介は思った。 元々響は物を散らかしっぱなしにする性格ではないのだろう、居住空間内に彼の衣服は何一つ脱ぎ散らかされていないし、デスク上やソファ周りも掃除が行き届いている。 「霧島は、几帳面なのか?」 秀介がキッチンで酒の準備をしている響に声をかけると、彼は二人分のグラスを手に、ソファまで移動してきた。 そして秀介と自分の前に、スコッチ入りのグラスを置く。 「なんでそんな風に思うの?」 「いや、片付いてるからさ」 「ああ、散らかってるの、すごく気になってさ」 それは本当のことだった。 響は掃除をするのが苦になるタイプではなく、むしろ掃除をしないことについて苦になるのだという。 「珍しいな?潔癖症ってやつか?」 「そんな大袈裟なものじゃないよ」 「それで、何かあったのか、今日は?」 「え……?」 響は目を丸くしながら、スコッチを一舐め、グラスをテーブルに戻した。 「いや、遊びに来ないかって言うから、店で何かイベントでもあるのかなって」 「ああ……いや、そういうことじゃなくて……」 ああ、もうだめだ。 こういう訊き方をされたら、どう答えようというシミュレーションをしていないので、気の利いた応じ方が思い浮かばない。 「あの……り、料理だけど!」 「うん?」 「も、もうちょっとしたら、武宮さんが作ってくれると思うから!」 秀介は突然大声で喋り出した響を、物珍し気に見つめる。 大学時代はあまり交流がなかったので、断言することはできないが、「声を張る響」というのは、とてもレアな気がした。 「お前がそんな声出すの、新鮮だな?」 「え……?」 「けなしてる訳じゃないんだけど、そうやって喋るお前って珍しいというか……レアな光景だなと思って」 そこまで話すと、秀介もスコッチを一口あおる。 「あ……ご、ごめん、牧原」 「何がだ?」 「その、最初の一杯はビールがいいよね?サラリーマンってそういうもんだって、誰かが言ってたような気がする」 「ああ、気にしなくていい。俺はそういうの、あんまり拘ってないからな」 それで、「何かあったのか?」という最初の質問を持ち出された響は、これ以上はもう誤魔化せないと腹を括り、真剣な眼差しでもって、秀介を見据えた。 「俺……牧原のこと、好き」 「ん……?」 「大学時代からずっと好きで……俺の初恋の人なんだ……俺なんかに告白されて気持ち悪いだろうけど……」 響の告白を受けた秀介は、鼓動を速めていた。 こんな時、どういう言葉を返してやるのがいいんだろう。

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