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第14話
気まずい沈黙が二人の間に流れ始めると、響のスマホがけたたましく鳴った。
画面を見れば、武宮からの電話で、1回だけ鳴って切られている。
多分、食事が出来上がったのだろう。
「ちょっと外すね」
響は驚愕の表情を浮かべる秀介に声をかけると、玄関の方へと歩いて行く。
そして玄関から直線上にある壁の中に埋め込まれた、1階とのリフトの前へと移動した。
実はこの家、昔は店舗だった場所だった。
1階と2階がゲイバーになっていて、1階で作った食事を2階に運ぶため使われているリフトがそのまま残っているのだ。
響は今、起きた時間に武宮に食事を作ってもらい、このリフトで運んでもらっている。
さて、この窮地をどう脱したものだろうと、響はリフトを開けながら考える。
勢い任せに告白してしまったはいいが、本気にして欲しいのか、冗談で済ませたいと思っているのか。
「そんなの……決まってるのにね」
相手のことを考えれば、「ジョークだよ」と言ってやるのが一番だ。
その台詞を紡ぐ響は苦しいが、やり過ごしていれば、いずれ忘れられるはずだ
第一、 秀介のことは、大学卒業を機に一度は忘れようとしてきた。
それなのに、再会したからと言って、忘れられないはずがない。
響は大きなトレイを応接セットまで運ぶと、それをそのまま真ん中に置いた。
武宮は何もかもを二人分作っていて、取り分ける必要はなさそうだ。
「ごめん、牧原。今のは……ちょっとした冗談」
「は……?」
「ほら、ここゲイバーだし……頻繁に来てたら突然コクられることもあるし……だからさ、そういう時のための予行練習というか……」
あれ、どうしたんだろう。
嘘を吐き通すって決めたのに、なぜだか視界が曇って涙が滴る。
目に力を入れれば入れるほど、涙腺が刺激されるような気分になる。
「霧島、そういう嘘は吐かなくていい」
「え、嘘じゃなくて……、告白は、ジョークで……」
すると、見かねた秀介がポケットからハンカチを取り出し、響の方へと差し出してくれた。
「使ってくれ。今日はまだ使っていないから、汚れてないぞ」
「い、いいよ……汚したら、申し訳ないし」
響はベッドサイドに置いたティッシュを何枚か抜き取り、目元を拭った。
そして秀介の向かい側に落ち着く。
「さ、食べようか。牧原はこの前、武宮さんの料理を食べないで帰ったもんね?美味しいよ、料理」
「それはそれとして、さっきの告白の件なんだが……」
「だから、ジョークだってば!」
響が極上の笑みを浮かべてそう言った瞬間、まるで「その言葉は嘘です」と言っているかのような大量の涙が目から溢れ出した。
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