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第15話
秀介は、告白されてからずっと、響の表情の変化を観察していた。
その結果、二つのことが浮き彫りになった。
一つは、彼が嘘を吐く時、瞳を泳がせる傾向にあること。
もう一つは、本当のことを言う時、瞳を泳がせることなく秀介から視線を外すこと。
今、止まらない涙をねじ伏せようとしている彼は、前者だった。
「告白はジョーク」という嘘を突き付け、瞳を虚空に彷徨わせている。
秀介は立ち上がると、響の方へと移動するが、それに気付いた響が勢いよく立ち上がって後ずさる。
「ちょ、こ、来ないで……」
怯える響の事情など知らず、秀介はどんどん彼との間合いを詰めていく。
部屋の片隅まで追い詰めると、ようやく響の身長が秀介のそれより一回り以上小さいことに気付いた。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
泣いている相手を、泣き止ませてやりたい。
秀介はハンカチを手にすると、片腕を壁に突っ張って響が逃げられないようにし、もう片手で彼の涙をゆっくりと拭ってやった。
「ま、牧原……?」
「好きだと言ってくれて、ありがとう」
「ま、待って……だから、冗談だって……」
「こんなに泣きながら冗談言うヤツなんて、珍しいな?返事は少し待ってくれ」
「じっくり考えたいんだ」と秀介が口にすれば、響は涙に濡れた瞳を秀介の方へと向けてきた。
「バ、バカじゃないの……?ていうか、バカなの……?」
「なんでそういうこと言うんだ?」
「だって、俺、男だよ……?気持ち悪く……ないの……?」
「そういうことじゃないだろう?」
それから、二人は武宮の手料理を味わいながら食べた。
秀介も「そこいらの居酒屋の料理より、ずっと美味しいな」とご満悦で、響としても救われた気分だった。
「霧島、告白の返事、少し時間をくれ」
「だ、だから、あれはジョークで……」
「俺さ、嘘を見抜くの、結構得意なんだ」
「っ!?」
秀介曰く、響の場合は嘘を吐く時、瞳が思い切り泳ぐとのことだった。
これは死んだ両親や武宮にも指摘されたことで、響としても押し黙るしかない。
「だから、冗談だなんて言わないでくれ。自分の心に嘘なんて吐くな」
「牧原……」
くどいようだが、響は男だ。
いくら大学時代の同期だからと言って、愛の告白を真剣に捉えなければいけないなんてことは、断じてない。
むしろ、ノープランで告白してしまった、響の落ち度だった。
「今日も楽しかった。また来るから……その時には、返事できるうようにするから」
響のドキドキは、ここから新たに始まった。
期待なんてするだけ無駄なのに、「もしOKしてくれたら」という妄想に浸かるのを、禁じ得なかった。
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