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第16話
響からの告白に、秀介は大いに戸惑っていた。
女に告白されたことはあっても、同性から告白された経験はない。
しかも相手はかつての友人だ、できることなら前向きに考えたい。
そんな葛藤を抱える秀介は、ゲイの先輩である杉沢に相談してみようと、屋上でランチを食べないかと誘ってみた。
屋上への階段を上って、一歩外へ踏み出せば、やけに近くに空があるなと感じた。
爽やかな秋晴れで、風もそんなに強くない。
秀介は社員の憩いのためのベンチが空いているのを見つけると、杉沢と共にそちらへ向かった。
「すいません、急に屋上に連れ出して」
二人は社食で買い求めた弁当を、膝の上で広げ始めた。
「いいってことよ。そんで、どうした?」
「杉沢さん……俺、男に告白されました」
「へぇ……それはそれは」
杉沢は割り箸を割ると、生姜焼き弁当を美味そうに頬張った。
「んで、お前はそのことに戸惑ってるってワケか?」
「はい……」
さすがに、話が早いなと、秀介も同じ弁当に箸をつける。
「そりゃ戸惑うだろうなぁ。相手は『謎の美少年』で合ってるか?」
「あ、はい……すごいですね、そこまで分かるんですね」
「何となく、な。アイツは俺らにとって、高嶺の花なんだ」
そのことは、秀介が初めてゲイバーの敷居を跨いだ時にも、聞かせてもらったが、具体的に何をどうしたら、響が高嶺の花なんてことになるんだろう。
そのことを杉沢に問えば、彼は弁当を頬張りながら、苦笑した。
「まず、誰かに話しかけるってことをしないんだ」
「ああ、そのことなら、以前聞きました」
杉沢は「そうだったか?」と言いつつ、話を続けた。
「誰かとどこかへ飲みに行くってことも、当然しなかった訳だ」
「はあ……」
まあ、そうだろうなと、秀介は思った。
そもそも杉沢は響が秀介に話しかけるまで、響が喋っている姿を見たことがないと口にしていたのだから、当然誰かと出かける姿も目にしていないだろう。
その頃響はムクリとベッドの上に起き上がり、幾分寝不足気味の頭でもって、スマホの秀介とのトーク画面を開いてみた。
「まだ、何も送ってこない……」
あの告白劇から、数日が経過している。
秀介にとってはどうか知らないが、響にとっては1日がとても長く感じられた。
それは、隙あらばスマホをチェックしてしまうし、店が開店すれば、いつぞやのように秀介が来るのではと、入口が開く度に期待してしまうからかもしれなかった。
「響君、落ち着きがないねぇ?」
あまりに挙動不審な響を見て、武宮がとうとう口を出してきた。
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