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第17話
スマホをいじくっていた響は、武宮に声をかけられ、ようやくスマホをカウンターの上に置いた。
「武宮さん、俺の好きな人のことなんだけど……」
「うん?」
武宮としては、いきなり響が本題に切り込んできたことに、少し驚いたようだった。
「俺の家に連れていった彼なんだけど、ノーマルなんだ」
「おやおや、それは……」
「またどうしてゲイバーになんかに来たのか」とでも言いたそうな表情を見せる。
響はそんな武宮を見て、たまらず苦笑を浮かべた。
「俺、この前彼を家に呼んだ時、告白したんだ……でも、困らせちゃってる」
多分、秀介は困っているのだろうと、響は確信している。
今まで女と付き合うことこそが自然だったはずの秀介が、突然男から告白されたのだ、むしろ困惑しない方がおかしい。
「相手がノーマルだとさ、望み薄いよね……?」
それは、響がフラれてしまうだろうという予感。
否、近い将来必ず訪れる現実と言った方が適切だろうか。
すると、黙って響の話を咀嚼していた武宮は、言いにくそうに口を動かした。
「相手がノーマルじゃねぇ……響君、なんでまたそんな人を好きになったんだい?」
「彼とは大学時代からの知り合いでさ。俺の初恋の人なんだ」
大学を卒業してからも忘れられなかった秀介が、たまたま店に遊びに来て、響と奇跡的な再会を果たした。
そう武宮に話せば、相手は「うんうん」と頷いて聞いてくれる。
「ゲイに目覚めるてくれると、いいんだけどねぇ」
「正直、それはないと思ってる。だから俺、諦めるためにできることをしなきゃ」
とはいえ、それができないからソワソワと落ち着きがないのだと打ち明ければ、武宮はそんな響に理解を示してくれた。
「諦めるための時間は、どんなにかかってもいいんだよ」
一方で秀介は、杉沢からのアドバイスに頭を悩ませていた。
曰く、「嫌いじゃないなら、付き合ってみれば?」というものだ。
「そういうもの……なのか……?」
響のことは、嫌いじゃない。
少なくとも、今後もあの店へ行って、響と二人きりで語らう時間を持ちたいと思うくらいには、好きだ。
だが、それは同級生としての響が好きなのであって、恋愛的な意味合いを持つ好きという感情とは、違っている気がする。
「牧原」
気付けば、隣に杉沢が立っていた。
「ああ、杉沢さん、どうしたんですか?」
何か用かと秀介が慌てれば、杉沢は呆れ顔で言う。
「お前さ、今何時だか分かってる?」
「え……?」
慌ててパソコンの画面下で時間を確認すれば、もう夜9時を回ってしまっていた。
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