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第18話

ここ最近の秀介の仕事は、お世辞にも暇だとは言えなかった。 杉沢から仕事の一部を引き継いだこともあるが、元々の秀介の仕事が産休社員のおかげでボリュームアップしたせいでもある。 とはいえ、毎日午後8時には社屋ビルを後にできている。 今日もその時間には帰路を辿れるはずだったのだが、考え事をしていたら、いつの間にかこんな時間になっていたという具合だ。 「また『謎の美少年』のことで、悩んでたんだ?」 「はあ……」 秀介は念のためオフィス内を見回すが、とりあえず近くの席に残業している社員の姿はなかった。 もっとも、杉沢も、そのことを知っているからこそ、響の話題をここで口にしたのだろう。 「友達から始めれば?」 「既に友人なんです。彼とは大学が同じだったんで」 「あれ、そうなの?」 「そんな話は初耳だ」と言う杉沢は、俄然興味を持ったらしく、近くの席から椅子を拝借して、秀介の隣に座った。 「大学時代からの付き合いだなんて、初めて聞いたけど?」 なぜだか杉沢が恨めしそうな視線を投げてくる。 秀介は「そうでしたっけ?」と言ってその視線を無視した。 「だから、友人としての付き合いは長いんです」 「大学時代、アイツ、相当モテてだろう?」 「ええ、まあ……でも、誰に告白されても付き合おうとしなかったので、おかしいとは思っていたんです」 それがまさか「ゲイだから」という理由で、告白してきた相手をフリまくっているとは。 秀介がそう言うと、杉沢は「そうだったのかぁ」と感心する。 「杉沢さんだったら、どうします?」 「俺だったら、付き合うな。とりあえず、ただのダチっていう視点からでは、見られないことが見えてくるだろうし」 それは、深い付き合いをすれば、相手の色んなことが分かってくるという意味。 様々なことを知ることで、相手を今以上に好きになるかもしれないし、全く好きじゃなくなるかもしれない。 でもそれは、付き合ってみなければ、絶対に分からないこと。 「そうですか……そうするにしても、俺、今のところ平日に店に行けそうになくて……」 こんな時間に仕事が終わる日々なのに、どうやって店へ行って響と会えというのだろう。 秀介もまた、告白に対して何らかのリアクションを起こさなければと焦っている。 「そんなのLINEで会う約束すりゃいいんでないの?」 「あ……」 「お前ね、今時LINE使わないってレアだからな?折角アカウント交換してるんだし、活用すれば?」 杉沢はそう言うと、「俺は先に帰るぞ」と言って会社を後にして行った。 秀介は、LINEを送るかどうか悩むが、今、結構疲れている。 こういう時にデリケートな内容のメッセージを送りたくないと思い、今はやめておくことにした。

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