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第19話

それから数週間が経過した。 秀介と再会した頃は、秋の始まりくらいだったが、今ではめっきり秋が深まった。 外を歩けば木々から枯葉が舞い落ち、地面を色とりどりに彩っていく。 面倒くさがりの響も、さすがに寒くて衣替えをし、長袖を着用するようになった。 あれから、秀介からの連絡はない。 もちろん、彼が店に来ることもない。 「あーあ、フラれちゃったかな……」 最近では、響も落ち着きを取り戻し、あまりスマホチェックをしなくなった。 そして店の経営者となるべく、武宮からのレクチャーを受けている日々だ。 だから、スマホよりも教えをメモするタブレットを触る頻度が増している状態だった。 「響君、それでいいの?」 響が秀介からの返事を待って、焦っていたのを知る武宮としては、息子同然の響の初恋が実って欲しいと、陰ながら祈っている。 「いいも悪いも……告白したきり連絡がないってことは、そういうことだよね」 「連絡してみたら?LINE、だっけ?連絡できるんでしょ?」 そう問われると、響は「もういいんだ」と言って笑って見せた。 きっと、秀介にとって、響からの告白は迷惑なものでしかなかったのだろう。 それに、秀介には今付き合っている彼女がいるかもしれない。 だとしたら、この店に来る必要性も、響に会いにくる理由も、ないに決まっている。 「大丈夫だよ、武宮さん。初恋は実らないってよく言うし」 午後9時、秀介の仕事はまだ終わらない。 毎日「今日こそは響に会いに行く」と決めて出社しているのに、片付けても片付けても仕事がさばけない。 「おい、ちょっと俺にも手伝わせろ」 そう声をかけてきたのは、とうに帰宅したはずの杉沢だった。 「杉沢さん、いいんですか?」 「構わねぇさ。俺、今しがた電話でフラれたばかりで、傷心だからな」 「え、彼氏いたんですか?」 「ああ、いた。まったく、ツイてねぇな……」 とはいえ、杉沢にとって、これが初めての失恋ではないということだった。 敢えて何度目かは聞かないが、結構頻繁に失恋を繰り返しているらしい。 秀介から見れば、「恋多き男」といったところだろうか。 だが、仕事を手伝ってくれるというならありがたい。 秀介は今手掛けている仕事の詳細を説明すると、今日終わらせるはずの残りの仕事の、半分を請け負ってもらうことにした。 「明日こそは、行けるか……?」 秀介はメールの類が得意ではなく、この件で響にLINEを送るつもりはない。 そして、仕事に忙殺される自分に、苛立ちを覚えないほど悠長でもない。 とにかく、焦っていた。 早くゲイバーに行きたくて、秀介にしては珍しくイライラしていた。

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