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第20話
秀介からのリアクションがあったのは、響が彼を諦めようと決めた直後のことだった。
もう頻繁にLINEをチェックすることはなくなったし、いつ告白の返事がもらえるのかと気を揉むこともなくなった。
むしろ「自分はフラれたんだ」と思い込むことで、自分の傷付いた心を癒し始めてから、数日が経過した頃のことだった。
「霧島、ずっとここに来られなくて悪かった。仕事を言い訳にしたくはないんだが、どうしても忙しくて……」
秀介が店に来たのは午後7時のこと、開店直後のため客はまだいなかった。
「牧原、無理することなかったのに……」
これには響も驚いた。
もう秀介は告白のことなど忘れているものだと考えていただけに、再び心の傷を抉られそうだとも危惧する。
「響君、上に行っておいでよ」
戸惑う響に声をかけてきたのは、厨房にいる武宮だった。
「武宮さん……」
「料理が出来たら、リフトで送るから」
「う、うん……じゃあ、お願い……」
響は疲労困憊という様子の秀介を促し、店を出て外階段を伝い、響の家の中へと入った。
いつしか外は震えるほどに冷え込んでいて、響は早速暖房のスイッチをオンにする。
見れば秀介はスーツの上に、トレンチコートを羽織っている。
道理で寒いはずだと思いながら、響は秀介からコートを預かり、ハンガーにかけた。
「スコッチ……しかないけど、いいよね?」
「いや、今日はいい」
「え……?」
「真面目な話をしに来たんだ。酒の勢いを借りたなんて思われたくない」
秀介の口調に、響は逆らえない。
というか、逆らってはいけないというオーラが、声から感じ取れた。
響は分かったとばかりに頷くと、「こんなものしかないんだけど」と言って、秀介と自分の前にミネラルウォーターを注いだグラスを置いた。
「サンキュ」
「仕事、忙しいんだ?」
「ああ、ちょっとな……余裕がなくて、お前のこともちゃんと考えられなくて……告白してくれてから、1ヶ月以上経ってるだろ?」
「っ!?」
響は声を詰まらせた。
秀介がまさか告白の日のことを覚えてくれているとは思わず、彼を諦めようとしていたことを数舜忘れてしまった。
「待たせてすまない……俺、あれからお前のこと考えてた」
秀介の話によれば、彼はずっと自分自身の中での響の存在について考えていたそうだ。
同性として、友人としての響のことは好きだ。
それは間違いないと胸を張れる。
じゃあ、恋愛対象としての響は、どうだろうか。
「付き合うとかって異性とするものだと思ってて……でも、同性同士でもできるんじゃないかって考えて……」
秀介の話は、響が思うよりも長く続きそうだった。
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