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第21話

それから──、と秀介は話を続ける。 途中、武宮から「料理ができた」との電話が入り、響がリフトに料理を取りに行く間話が中断したが、彼は彼自身の思考回路自体を、言語化しようとしているように見えた。 「男同士の恋愛って考えた時、俺は正直無理だと思った」 「……そっか」 「だが、それはお前以外の男だったら、の話だ」 「え……?」 「俺はお前のことを、どうしても嫌いになれない。恋かどうか分からないけど好きだ……これじゃ、返事にならないか?」 響は料理に伸ばしかけた手を引っ込めた。 「恋かどうか、本当に分からなくてすまない。確かめるために、どうしたらいいのか分からないんだ」 秀介の真摯な眼差しを受け、響もまた真面目に考える。 恋愛感情があるかどうかを見極めるためには、何をどうしたらいいのかと。 「それじゃ……」 あれ、何を言おうとしているんだろう。 多分こんなことを言ったら引かれるだけだと分かっているのに、どうして伝えようとしているんだろう。 しばらく考えて、ああ──、と納得できた。 響は秀介との思い出が欲しいのだ。 だから、一つでも多く恋人らしいことをしたくて、必死なのだ。 心の中で結論が出ると、案外気楽になれた。 「牧原、ちょっと立ってみてくれる?」 「ん?ああ……」 秀介が立ち上げると、響も同じようして、彼の目の前へと移動する。 そして秀介のネクタイを片手で掴んで自分の方へ引き寄せ、彼の形のいい唇の上に響のそれを重ねてみた。 ああ、心地がいい──。 このキスが嫌だと言われたら、響は失恋したと言ってもいいだろう。 キスもできない相手と、恋愛なんてできない──、少なくとも響はそういう思考の持ち主だった。 ひとしきり唇を重ねから、解放してやれば、秀介はキョトンとした顔で響を見つめてきた。 「ごめん……嫌だった、よね?」 目を覗き込みながら、機嫌を窺うようにそう言えば、秀介は小さく首を横に振る。 「嫌じゃなかった……」 「え……?」 「嫌じゃなかったんだ。むしろ、自然なような……どういうことだろうな、これは?」 秀介もまた、自分の中に根付く想いに、大いに戸惑う。 男とのキスなんて、罰ゲームでもない限り、お断りだと思っていたのに、響とのキスは少しも嫌じゃなかった。 むしろもっとディープなキスをしたくて、胸が高鳴る始末だ。 「牧原って、今彼女いるの?」 秀介が沈黙していると、響が問いかけてきた。 「いや、今はいない」 「じゃあ、俺と付き合ってみない?遊びでもいいし、本気じゃなくてもいい……彼女ができたらポイ捨てするのでもいい……でも、牧原は俺の初恋なんだ」

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