21 / 38
第21話
それから──、と秀介は話を続ける。
途中、武宮から「料理ができた」との電話が入り、響がリフトに料理を取りに行く間話が中断したが、彼は彼自身の思考回路自体を、言語化しようとしているように見えた。
「男同士の恋愛って考えた時、俺は正直無理だと思った」
「……そっか」
「だが、それはお前以外の男だったら、の話だ」
「え……?」
「俺はお前のことを、どうしても嫌いになれない。恋かどうか分からないけど好きだ……これじゃ、返事にならないか?」
響は料理に伸ばしかけた手を引っ込めた。
「恋かどうか、本当に分からなくてすまない。確かめるために、どうしたらいいのか分からないんだ」
秀介の真摯な眼差しを受け、響もまた真面目に考える。
恋愛感情があるかどうかを見極めるためには、何をどうしたらいいのかと。
「それじゃ……」
あれ、何を言おうとしているんだろう。
多分こんなことを言ったら引かれるだけだと分かっているのに、どうして伝えようとしているんだろう。
しばらく考えて、ああ──、と納得できた。
響は秀介との思い出が欲しいのだ。
だから、一つでも多く恋人らしいことをしたくて、必死なのだ。
心の中で結論が出ると、案外気楽になれた。
「牧原、ちょっと立ってみてくれる?」
「ん?ああ……」
秀介が立ち上げると、響も同じようして、彼の目の前へと移動する。
そして秀介のネクタイを片手で掴んで自分の方へ引き寄せ、彼の形のいい唇の上に響のそれを重ねてみた。
ああ、心地がいい──。
このキスが嫌だと言われたら、響は失恋したと言ってもいいだろう。
キスもできない相手と、恋愛なんてできない──、少なくとも響はそういう思考の持ち主だった。
ひとしきり唇を重ねから、解放してやれば、秀介はキョトンとした顔で響を見つめてきた。
「ごめん……嫌だった、よね?」
目を覗き込みながら、機嫌を窺うようにそう言えば、秀介は小さく首を横に振る。
「嫌じゃなかった……」
「え……?」
「嫌じゃなかったんだ。むしろ、自然なような……どういうことだろうな、これは?」
秀介もまた、自分の中に根付く想いに、大いに戸惑う。
男とのキスなんて、罰ゲームでもない限り、お断りだと思っていたのに、響とのキスは少しも嫌じゃなかった。
むしろもっとディープなキスをしたくて、胸が高鳴る始末だ。
「牧原って、今彼女いるの?」
秀介が沈黙していると、響が問いかけてきた。
「いや、今はいない」
「じゃあ、俺と付き合ってみない?遊びでもいいし、本気じゃなくてもいい……彼女ができたらポイ捨てするのでもいい……でも、牧原は俺の初恋なんだ」
ともだちにシェアしよう!