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第23話
あの牧原秀介が、霧島響の彼氏になったという話を、大学時代の友人が耳にしたら、みんなどんな顔をするのだろう。
「カミングアウトって、やっぱり衝撃大きいですか?」
秀介は響と付き合いを始めたことを、とりあえず先輩総務マンの杉沢にだけは教えておいた。
本当は誰にも明かさずにおきたかったのだが、どうにも同性相手の恋愛経験がなくて心もとなく、失恋したばかりで嫌がる杉沢を、こまめにランチに誘って話を聞いてもらっている。
「誰にカミングアウトすんだよ?大学時代の同期に、そうしなきゃいけない相手でもいるのか?」
渋々屋上へ連れて来られている杉沢は、北風が首筋をかすめると、大袈裟に首をすくめて見せる。
ここは秀介が杉沢に話を聞いてもらいたい時限定で使う、昼食時の屋上だった。
寒い季節になったせいか、昼休みにここへ足を運ぶ社員は、少なくなっている。
「いや、例えば、の話ですよ」
「俺がお前にカミングアウトした時の心境が、今になって分かるだろ?」
「え?ああ……あの時は、失礼しました」
杉沢に同性愛者だと打ち明けられた時の秀介は、とにかく戸惑うばかりだった。
偉大な先輩によれば、顔面の筋肉も喋る口調も、おかしかったということだ。
「まあ、今のところは誰にも明かさないにしても……まさかお前がこっちの世界へ来ちまうとはね」
別に誘った訳ではないのに、なんでまたこんな面倒な世界へ来たのかと問われれば、秀介としては響の魅力に取りつかれたからとしか言いようがない。
「男なら誰でもって訳じゃないんです。響だからいいっていうか……」
「ふぅん、あの『謎の美少年』って、『ひびき』っていう名前なのか。洒落てんじゃん」
「え?あ、しまった……き、聞かなかったことにしてください」
少し警戒心が緩み過ぎているようだと、秀介は気を引き締め、ゲイの先輩に男との付き合い方を次々と質問していくのだった。
『会いたいんだけど、いつ店に来られる?』
響はそういうメッセージを書き、LINEの送信ボタンを押した。
秀介とは、キスを交わした日以来会ってはいないが、LINEでのやり取りは今まで以上に頻繁にしている。
だが響は秀介にどんな話題を振っていいのかが分からない。
向き合って話せば自然と話題が出てくるのだが、いざメッセージを送るとなると、どんなトピックを持ち出すのがいいのか、思いつかないのだ。
だから、響は「会いたい」という言葉をぶつけ続ける。
本当に秀介の顔が見たいというのもあるが、話題が見付からないからこそ、会いたいと思うようになるらしかった。
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