ところが、秀介はそのうち、響からのLINEを既読スルーするようになり、全く店へ来なくなってしまった。 これには響も落ち込んだ。 嫌いになっているのなら、ちゃんとその旨を伝えてくれないと、期待してしまう。 だが期待しているところに、メッセージに返信しなかったり、会いに来ることもなくなると、どうしようもなく気分が沈む。 「武宮さん」 響はLINEのトーク画面を閉じると、モップ掛けの手を止めて、開店前の店内のカウンターに腰掛けた。 「どうしたの？浮かない顔してるね」 「うん……あのさ、やっぱりライフスタイルが違う人と付き合うって、難しいのかな？」 「うーん、どうだろうな……。ここに来る客達だって、忙しい中来ている訳で」 つまり、武宮が言っているのは、こういうことだった。 たとえ忙しくても、来る気があれば来られるものではないのだろうか。 ただし、来るための理由には、強いものが必要になる。 例えば、相手を物色したいと切に願っていたり、意中の相手と話がしたいと祈っていたり。 変な話、確固たるモチベーションがないままだと、店に来ることよりも、多忙さに疲労することが多いのではという。 とはいえ、武宮もサラリーマンを経験したことがない身なので、いわゆる会社員がどのくらい忙しいものなのかは、見当がつかないとも言っていた。 「響君、LINEだっけ？それがだめなら、電話をしてみたら？」 そう提案してもらえるのはありがたいのだが、それはできないと響は首を横に振った。 「秀介の電話番号、知らないんだ」 「いや、ほら、番号は知らなくても、LINEっていうので繋がってればかけられるんでしょ？」 「ああ、無料通話か……でも、それこそ何時にかけていいのか分からないよ」 秀介にだって、彼なりの生活リズムはあるだろう。 響にもあるのだから、恐らく間違いない。 じゃあ、何時だったら電話していいのか。 たとえば夜11時に電話をして、相手が就寝直前だったらどうしよう。 響が起きた昼過ぎに電話をしたら、相手は就業中で出られない。 そんなことをグルグル考えていると、結局電話ができなくなってしまうのだった。 午後10時──。 秀介はようやく今日1日に処理すべき大量の業務を終え、デスクの前で放心していた。 同じ部署の社員は全員帰ってしまっている。 「なんでこんなに仕事が多いんだ……」 分かっていることだが、仕事量が多いのは、あと半年くらいだ。 実は少し前に産休に入った女子社員がいて、彼女の業務を秀介1人でカバーしているため、多忙になっている。 「あと半年……頑張らないとな」 果たして頑張れるだろうかと、半ば気が遠くなっていた。