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第25話

余裕がなく、日々追い詰められるような切羽詰まった表情ばかりを見せるようになった秀介を見かねたのは、先輩総務マンである杉沢だった。 とにかく、秀介は四角四面に物事を考え過ぎている。 緩急をつけながら仕事をしなければ、終わるものも終わらない。 産休を取った社員の業務に手こずるのは分かるが、だからと言って毎日10時過ぎまで残業するのはいかがなものかと思ったのだ。 「お前さ、今やってる仕事、俺に見せてみ?」 杉沢は、まず秀介に仕事リストを作らせ、一緒に吟味していくことにした。 「これは毎日やらんでもいい。これも、これも……ああ、これもだ」 何とまあ丁寧な仕事っぷりではあるが、杉沢がはじいている仕事は毎日やるものではなく、週に1度、まとめてやればいいものばかりだ。 「ああ、この仕事は派遣の子に振って問題ねぇよ。どうよ、これでお前の残業、随分改善されると思わねぇか?」 「はあ……でも、そんなに省いてしまって、いいんでしょうか?」 「いいか、牧原?社会ってのは真面目なヤツからつぶれていく。長く働きたいなら、適当になれ」 すごい教訓だなと思う秀介だが、何となく杉沢の言いたいことも理解できるかもしれないと思った。 当の杉沢が、あまり几帳面に仕事をしているように見えないからだ。 決して手抜きをしているのではなく、緩急の付け方が絶妙といったところか。 「ありがとうございます、杉沢さん」 「これで『謎の美少年』に会いに行けるな?」 杉沢は、ニヤリと笑って、小声でそう言ってきた。 「ちょっと、今仕事中ですよ!?」 「わーってるよ。ま、それはそれとして、ちゃんと毎日息抜きをしろ。そんな余裕のないツラじゃ、男前が台無しだぜ」 今日は響に会いに行けるかもしれない。 秀介は杉沢にチェックしてもらった仕事リストと、これから手掛けようとしている仕事を見比べながら、そんなことを考える。 息抜きなんて言葉、ここのところずっと忘れていた。 「あれ、そういえば、響に最後に会ったのって……」 いつだっただろう。 トレンチコートを着始めて、すぐだったような気がする。 ということは、あれからかれこれ1ケ月以上が過ぎていることになるのだろうか。 その間、秀介は余裕のない頭でもって、響のことを考えていた。 でも、連絡は何一つ取っていない。 そうだ、つい最近LINEを受信した。 確か「店に来ないか?」と書かれていて、「そんな余裕があるはずがない」と無視していたのではないか。 いくら余裕がなかったとはいえ、さすがに既読スルーはまずいだろうと思うと、なんだか頭が痛くなってきた。

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