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第26話

秀介は、その日定時である午後6時に仕事を終え、響の店へと向かっていた。 杉沢に言われた通り、仕事を省いたら、確かに定時で上がれる。 ただ、果たしてそれでいいのかと疑問に思う気持ちは、ずっと頭の中にあった。 だが帰り際、杉沢にもう一度仕事を省いたことについて質問したところ、「問題ないって言ってるだろ」と言われてしまっている。 「俺が非効率的な仕事をしてたのか……」 まるでそう言われているみたいだ。 お前は不器用で融通が利かなくて、のろまなのだと。 そう考えると、今度は苛立ちを覚えるようになる。 ゲイバーに来るような余裕も持てなかったこれまでの自分に、唾を吐きかけたくなった。 響は店内の壁かけ時計た午後7時を差すと、ドアにかけている札を「OPEN」にすべく、外に出た。 「響」 「──っ!?」 名を呼ばれると、響は思い切りビクッとしながら、肩越しに後ろを見つめる。 そこには、少しやつれた秀介が立っていた。 もうここには来ないのだろうと思っていた響にとっては、嬉しい誤算だ。 「秀介……久しぶり」 「ああ。すまなかったな、色々と……ずっと忙しくて……」 「い、いいよ、謝らないで」 「二人きりで話さないか?」 そう請われると、響は小さく頷いた。 そしてジーパンのポケットから家の鍵を取り出し、秀介に預ける。 「先に2階に行ってて。俺は、武宮さんに伝えてから行くから」 「ああ、分かった」 秀介はキーを手にすると、2階へと上がっていく。 響は店内に戻り、武宮に「秀介が来たんだ」と告げた。 そしてカウンター上に置いてあるタブレットやスマホを小脇に抱え、店を出て2階へと上がる。 玄関のノブを右に回してドアを開けると、秀介は力尽きたように上がり口のところに座っていた。 「秀介、ちゃんと中に入ってよ」 「ああ……そうだな」 秀介はゆらりと立ち上がり、響が差し伸べてくれた手を取って立ち上がる。 そして先を行く響の後をついて、居住スペースまで移動する。 そこまで歩けば、後はソファに身を沈めてしまえばそれでいい。 秀介がソファに沈むように腰掛けていると、響がスコッチを運んできてくれた。 食事の方は、武宮が後で用意してくれるらしい。 「悪いな……くたびれ果ててるんだ……」 「毎日残業してたの?」 「そうだ。でも、残業の原因は俺にあったらしい」 秀介は杉沢に仕事内容をチェックしてもらって、ようやくここへ来ることができたのだと白状した。 まるで自分の鈍くささを暴露しているようで、あまり気分がよろしくなかった。

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