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第27話

しばらくスコッチを舐めながら話していると、武宮がリフトで料理を届けてくれた。 すかさず響が立ち上がって、リフトから料理を運んできてくれる。 秀介はようやく背筋を伸ばして座ると、見るからに美味しそうな料理を少しずつ口に運び始めた。 「秀介、お腹空いてたの?」 「何でだ?」 「いつもよりガツガツ食べてるから……違ったらごめん」 「いや、違わない。そう言えば、昼飯を食べはぐった」 食事がとれないほどに忙しい仕事とは、どういうものなのだろう。 サラリーマンを経験していない響には、想像もつかない。 でも、やつれ方を見る限り、秀介が本当に多忙であったことはよく分かった。 そこで響は考える。 もっと秀介と会えるようになるためには、どうしたらいいのだろう。 一緒にいたい。 そばに置いて欲しい。 そんな願いを叶えるためには、どうすればいいんだろう。 「ね、秀介?」 「ん?」 「俺達さ……一緒に住むことって、できないかな?」 それは、とんでもなく突発的なアイディアだった。 だが、秀介のそばにいるためには、そうするのが手っ取り早い気がする。 響もまた、焦りを感じていた。 初めての恋だから、相手との距離感をどう保つのがいいのかが分からない。 「響、お前も俺のこと鈍くさいって思うのか?」 「え……?」 「定時で仕事を終わらせられないから、一緒に住む……そう言われてるみたいだ」 「ち、違う……なんでそんな風に言うの?」 「どうせ俺はだめなヤツだ……」 ああ、だめだ。 響は何も悪くないのに、八つ当たりをしている。 何だってこんなに腹が立つのだろう。 「一緒に住みたい」と言う響に対してではなく、自分に対する苛立ちを隠せない。 「悪い、響……」 秀介は食事の途中で立ち上がると、ハンガーからコートを外して袖を通す。 「秀介……もう帰るの?」 「ああ……悪いが、しばらく放っておいてくれ」 こんな気分のまま、響と一緒に過ごしていたら、相手をもっと傷つけてしまう。 多分疲れているんだ。 家に帰ってゆっくり眠れば、このつっけんどんな態度も改まるだろう。 「秀介、それって……俺達別れるっていうこと?」 玄関まで移動し、革靴を履いていると、追ってきた響が問う。 切羽詰まった声だった。 「そうは言ってない」 そう、別れようとは思っていない。 ただ、心に余裕ができるまで、待ってくれと言っているんだ。 やっと何が悪かったのかが明らかになったのだ、数日もすればいつもの自分を取り戻せるだろう。 「じゃあな」 パタン──、と玄関のドアが閉められると、響は大粒の涙を瞳から零した。

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