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第28話
秀介の背中を見送った響は、しばらくその場に立ち尽くして涙を流していたが、やがて踵を返してソファへと戻る。
そしてあまり手を付けていない料理にラップをかぶせると、それをリフトに乗せて1階へと送った。
その後、自分も階下へ戻るべく、外階段を伝うが、その瞬間店の電飾が赤と緑に彩られていることに気付いた。
「クリスマス……」
そうだ、クリスマスが近いんだった。
今年のクリスマスは、どんなクリスマスになるんだろうと、期待と不安を抱えていた。
期待とは、秀介と一緒に過ごせるということ。
不安とは、秀介と一緒に過ごせないということ。
「不安の方が、的中しちゃったな……」
今日の秀介には、余裕がなかった。
仕事が忙しいからそうなってしまっていたことは、何となく理解できた。
でも、響は決して秀介を「仕事ができないヤツ」だなんて思っていない。
むしろ、逆だ。
仕事ができるからこそ、色んな仕事を任されているんじゃないか。
そんな風に考えていた。
そこで響は首を横にブンブンと振る。
「だめだ、まだ営業中なんだし、しっかりしないと」
開店中の響はただカウンターに座っているだけだが、それも立派な仕事の一つだ。
それに、さっきリフトから下ろした料理について、武宮に説明しなくてはならない。
響は力ない足取りで店のドアを内側に開くと、いつもの自分のポジションへと戻って行った。
秀介は帰るなり乱暴に鞄を床に置いた。
「クソッ!」
どうして響にあんな物言いをしてしまったのだろう。
相手は今にも泣きそうな顔をしていたというのに。
「俺のせいだ……俺の……」
あんな表情をさせるはずじゃなかった。
店に行く前は、響を驚かせてやろうと思っていたのに、いざ彼と会ったら、途端に気が緩んでしまった。
だからこそ、秀介の本音が口から洩れた。
相手を傷つけるだけだと心の中では分かっていたのに、気付けば口をついていた。
「そうだ、LINE……」
秀介はスマホを手にすると、LINEのトーク画面を開いた。
響から「店に遊びに来ないか」というメッセージを受け取ったきりになっている。
秀介は言葉を選びながら、メッセージを打つ。
一緒に住むことは、もう少し落ち着いてから考えたいということ。
今日の自分の態度については、とても反省しているということ。
そして、自分達は付き合っているんだから、そのことを忘れずにいて欲しいということ。
秀介は言いたいことをメッセージにすると、送信ボタンを押してしばし待つ。
いつ既読マークがつくんだろう。
だが、そのマークがつくことはなかった。
日付が変わっても、その状況に変わりはなかった。
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