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第33話

秀介は部屋の奥まで移動すると、着用していたコートを脱いで、ソファの上に置いた。 響はそんな彼にハンガーを差し出すような真似はしないし、スコッチを振る舞う気もなく、向かい側に腰掛ける。 「秀介、頼むからもう俺に関わらないで欲しい……俺達は、もう終わりにした方がいいんだ」 社会人でノーマルな秀介と、水商売の店のオーナーでゲイの響の付き合いが、うまくいくはずがなかった。 住んでいる世界が違い過ぎて、互いに互いを理解してやれない。 そのことが、想像していたよりもずっと大変なことなのだと、響は実感していた。 「俺は終わりにした覚えはない」 一方で、秀介の腹も決まっていた。 響がLINEを読んでくれない理由など、一つしかない。 彼は逃げようとしているし、内心逃げ切ったと思っているのかもしれない。 だが、秀介はそれを認めていない。 自分達はまだ付き合っていて、恋人同士なんだということを今一度自覚してもらわなくてはならない。 「どうやって、うまく付き合うの?俺と秀介じゃ生活のリズムが違い過ぎるし……仕事だって違い過ぎる……」 「努力する」 「っ!?」 それは、響が自己完結させていた思考の中に、新たな定義を落とし込むような台詞だった。 そう、秀介はいつだって努力をしていなかった。 響にばかり気を使わせていて、自分は仕事の重責に負け、挙句八つ当たりをして彼を傷つけた。 だから、今度は秀介が響を思い切り甘やかしたい。 甘えに甘えさせ、蕩けそうになる響の顔が見てみたい。 秀介はそう考えるなり、ソファから立ち上がって真ん中のガラスのテーブルを避け、響のそばまで移動する。 そして彼の腕を引っ張り上げて立ち上がらせ、思い切り抱き締めた。 「秀介!?ちょっと……放して!?」 バスケで鍛え抜いた逞しい腕の中で、華奢な響が身を捩ろうともがく。 「やだ……ッ……!」 だが秀介はそんな声に耳を貸すことはなく、左手で響の顎を掴むと、強引に唇を重ねた。 「んんッ!?」 舌がねじ込まれてきた。 響が息苦しさのあまり小さく口を開けば、ぬるりとした舌の感触が口の中いっぱいに広がる。 ああ、これがディープキスというやつか。 なるほど、好きな人と交わすのであれば、心地いいと思える。 こんなキスを尾高と交わせと言われたら、響は間違いなく拒むだろう。 だからと言って、秀介と交わすこのキスが、正しいとは思えない。 とにかくもう秀介とは終わったのだ、未練がないと言えば嘘になるが、こんなことをして響の決意を翻そうとしないで欲しい一心だった。

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