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第37話
秀介と響は、セックスが終わると、ベッドの中で抱き合っていた。
響にとっては、ヴァージンを差し出した気分だ。
痛くないと言えば嘘になるが、今はそのことよりも、気分的に満たされていることを喜びたい。
「秀介……俺達、別れなくていいの?」
響がそう問えば、秀介は彼の髪を優しく撫でる。
「誰が別れるなんて言った?なのに、お前は俺のLINEを読んでくれさえしなかった」
「秀介……あれね、俺、読んだんだ」
「どうやって?」
既読マークをつけずにLINEメッセージを読むには、一つだけ方法がある。
それは、メッセージを受信してスマホにポップアップが表示されたと同時に、メッセージを読んでしまうという手段だった。
これなら、既読マークがつくことなく、送ってくれた文章が読める。
「秀介が反省してることは知ってた……でも、多分もう無理なんだって……生活リズムが、俺と秀介では違い過ぎるって……」
だから、謝られても何も送って来なかったのだと、響は言う。
「そんな手があったとはな……改めて、あの時はすまなかった」
そう詫びると、秀介は響に、あの時どんな精神的負荷がかかっていたのかについて、できる限り噛み砕いて語って聞かせた。
「俺は仕事ができないんじゃないかと、本気で悩んだ」
「俺は、逆じゃないかって思ったよ」
「逆……?」
「うん。秀介は仕事ができるから、たくさん仕事を回されちゃうんだろうって」
その発想はなかったと、秀介は素直に目を見開いた。
「なぁ……あの話って、まだ有効か?」
「あの話……?」
「お前が、一緒に住もうって言ってくれただろう?それのことだ」
ああ──、と響は思い出した。
秀介との距離を詰めたくて焦るあまり、相手が置かれた状況も考えずに、「一緒に住みたい」と言った、あの話のことか。
「有効だったら、どうするの?」
「実行しようと思ってな」
「え……?」
「お前が他の男と喋ってるのを見たら、やたらと腹が立った。どうしたらお前を独占できるのかを考えてた」
響と尾高が仲良く喋っている光景は、秀介にとって地獄絵図以外の何物でもなかった。
嫉妬で頭がおかしくなりそうで、胸が灼けるように痛んだ。
そうならないためには、自分がここに住めばいい。
そうすることで、いつでも響を愛せる環境を作っておけばいい。
「俺を独占したいって……秀介、それ本気で言ってるの?」
「ああ、本気だ。何かまずいのか?」
響は自分で自分のほっぺたを軽くつねってみた。
夢ではないかと思ったが、どうやら現実の出来事のようだった。
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