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第7話 闇の足音

「いけません、魔王、様……!」  ショッキングピンクや蛍光グリーンの光球が暗闇の中で輝く空間の中、座ったまま下から突っ込まれ、快楽を堪えられず喘ぐ男。 「俺のビッグエクスカリバーがそんなに良いのか? ん?」  それを支える男が赤いマントに全裸という、あんまりな格好で相手を責めていた。厳密には全裸ではなく、黄金の鎖やネックレスをじゃらじゃらと首から下げていて、サングラスも目の上にかけていた。それにしても、比喩に使った伝説の聖剣の扱いが酷すぎる。 「魔王様、(わたくし)は、もうっ、限界で、ございます……!」  一方男の方は、ワイシャツに背中の開いたベストを崩さず、下だけを脱いだ状態で犯されている最中であった。魔王様、と呼ぶ辺り彼は部下なのだろう。楽曲が演奏されているのだろうか、低音が等間隔で響く。 「イくのか?ローラントよ」  ニヤリと笑う魔王。こくりと必死に頷いた男に向かって笑い出した。 「よかろう!我が精魂を最後まで注ぎ入れよ!」 「あぁー……っ!」  思い切り突き上げると同時に、あられもない声を上げて仰け反った部下。彼の尻から、『魔王』の精液が溢れる。がくがくと腰を揺らめかせる彼から男根を引き抜くと、その男は笑いながら照明で輝く部屋を見回す。くぐもった音が次第に鋭利になると同時に、光がぐるぐると回った。 「よし、次の女を用意しろ」 「……魔王様、度が過ぎます」  まだ行為を強請る男の肩を掴み、窘めるローラント。 「この俺に指図とはな。なんだ、嫉妬か?」  下衆た笑みを浮かべ尻を撫でた後に、違うと申すつもりだった彼の自身を撫でる。突然の愛撫に抑えられない声が再び響く。 「まぁ良い。トラックスの状況を教えろ」  興奮の止まない彼をよそに、やってきた蝙蝠のような使い魔に命令をする男。 「あの馬鹿弟をまた野に離したんですか」  身体をひくつかせながら、彼は不服そうに男に申し出る。 「ローラント、お前も少しはあやつを可愛がったらどうだ」  男は慣れた様子で彼の背中を撫でた。じゃらじゃらと鎖の音が鳴る。ふん、と男の上でそっぽを向いたローラント。別の使い魔が長方形の硝子板を掴んで持ってくる。そこには、先程のローブの男が映っていた。 「お取り込み中ごめんねー!魔王様、『竜の子』に会ってきたよ!」 「ほう、それは良いな」  下顎に手を着けて、興味津々に画面を見る男。 「なんだかめんどくさそうなオッサンも一緒だったけど」 「……トラックス、戦闘ログは取ったのか」  ローラントも振り向き、画面の向こうの男に質問する。 「兄貴、そんな顔すんなって!ザコオークを犠牲に一応記録しておいたよ」  流石だな、と男はサングラスを動かすとニタニタと笑い始める。 「追跡を続けろ」  りょーかい、元気な少年の声が硝子の板を通じて聞こえてくると、そこで通信は途絶えた。相変わらず、部屋には下品に曲が流れている。 「さて、どうなることやら」  そしてこの闇を仕切る魔王は、その下衆た笑みを止めなかった。 「何だったんだ、あの男」 「……魔王の部下だ」 「ただの愉快犯じゃないのか?」  セルギウスが一瞬で姿を消せる時点で只者ではないだろう、と言うと彼は納得した。 「だけど出来過ぎじゃないか?」  それでも彼は、ドラゴミールは腑に落ちない顔をしていた。否、 「そうだな。そう思いたい。お前の存在がなければ」 「……クソが」  彼の秘密を考えると、嫌なほど納得できる事実を見なかったことにしたかったのだ。 「だが私は約束する、お前を守ると」 「俺はお姫様か」  相方の臭い台詞にも、辛うじて応じる彼。 「血に囚われているという時点では、小国の姫よりも厄介だろうな」  セルギウスは目を閉じる。面倒なことを考えそうだなと察したドラゴミールは、すかさず今後のことを提案した。 「とりあえず、ヴォルティに向かおうぜ。」 「ドラミス、」  再び笑顔を――たとえ作り笑いでも、取り戻したドラゴミールを放っておくセルギウスではない。 「ファラディスで食った肉の味が忘れられなくてさ、あそこでも食えるみたいだから」 「……嗚呼、腹が減っては不安が募るだけだな。」  そうだろう、と自信満々に言うドラゴミールを見て彼も僅かに微笑み、次の目的地を決めた。

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