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エピローグ

 音を立てないよう慎重に回したつもりだったが、静かな玄関に、カチャンと大きな音が立つ。再び慎重に、今度は開けた鍵を閉めるが、やはりカチャンと響いてしまう。そろりとリビングへ入り、冷蔵庫のミネラルウォーターで一息ついていると、 「ゆーちゃん、おかえり」  背後から声をかけられる。 「……宵、悪い。起こした?」  寝巻姿の弟は、唇の両端をきゅっと上げた。 「ううん。まだ起きてた」 「そ」  ソファの横が浅く沈む。並んで座るふわふわの頭を撫でてやると、宵はくすくすと笑った。 「ゆーちゃん、ご機嫌だね……なんか良いことあった?」 「さぁな」 「なにそれー」  侑紀の肩に甘えた仕草で頭を乗せ、宵が上目遣いで見上げてくる。 「ね。あとちょっとで、むっちゃんの誕生日だね」 「そういや睦月は?」 「帰ってこない」 「連絡は?」 「ない。やっぱ、恋人、かなぁ……」 「どうかな。睦月、シャチクだから」 「俺、寂しい……」 「ガキ」 「ゆーちゃんだって寂しいくせに」 「てか。睦月に恋人とかありえない」  親代わりと言っても言い過ぎでない睦月は、昔から色恋に縁遠い。原因のほとんどは自分たち二人にあるのかもしれないが、それにしても、生真面目な長男を無断外泊させるような相手なら、ろくなやつではないだろう。悪いのに引っかかってるのかもしれない、聞き出して目を覚まさせないと。  侑紀の決意を知る由もない弟が、あ、と弾んだ声を上げる。 「日付変わった。ねえゆーちゃん、同時にむっちゃんにラインして、驚かせよ?」 「いいぜ」  二人はスマホを取り出し、ふふ、笑い合った。 <魚住兄弟の金曜日 終わり>

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