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宵2-1
放課後の校舎は、いつもなら空洞みたいにがらんとしている。上履きの靴音だけが天井に跳ね返るだけの静けさも今はなく、通り過ぎる教室には人影があり、声が聞こえ、時折はペンキやマジックのにおいが漂ってくる。学園祭を今週末に控え、準備は大詰めだ。自分のクラスは運動部員の準備参加は免除されているとはいえ、まったく顔を出さないのも悪い気がして、しかしというか案の定というか顔を出したところで大した役にも立たず、気遣いという名の厄介払いによって部活へ向かうところだった。せめて当日の肉体労働では役に立たないと――。
キャー、と、ひときわ華やかな歓声が上がる。
思わず足を止めたのは、二つ離れた教室の前。開け放った扉の奥に、人の輪ができているのが見えた。人、というか、女子。その中心に立っているのも女子だと思ったのは、「彼女」がよく見慣れた制服を着ていたからだ。
ブラウスの上からベージュのセーターを着て、襟元に紺のリボンを付けている。ちょうど膝頭に触れる長さのチェックのスカートに、アディダスの紺の靴下。胸より下まである長い髪は、白い肌と相まってずいぶん明るく見える。それに、長いまつ毛、ピンクの頬、頬より濃く艶めくピンクの唇。全部が出来映えのよい人形めいていて、息を呑んだまま動けないでいる。どこか不安そうに周囲を見回していたその視線がぴたりと止まり、ガラスのような瞳と目が合う。心臓まで停まってしまいそうだった。
「森」
小さく手を振って、宵が笑っている。
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