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第14話

 ** 14 **  店内を眺めていて気がついたことがある。  当然といえば当然のことだったのだが、尾のあるナゴ族は、服の背面にそれを通す穴が必要だったのだ。正確にいえば、上側が開いた穴に尾を入れ、それを囲むように釦(ボタン)を止め穴を閉じる仕様になっているようだ。  夜、リツが下着を履かないままでいたのは、好みの問題ではなく、構造的にどうしていいのか迷っていたからなのかもしれない。   (尾が、いつも垂れていたから)  だから気がつかなかったが、気に入ってもらえたらしいあの服も尾が持ち上がれば裾も一緒に上がってしまうのだろう。 (今度買うときは、考えないといけないな。しかし大きさの問題もあるか。ミエラに繕ってもらえば人間の女性物でも大丈夫だろうか)  そこまで考えて、いやいや女性物の下着は違うだろうと首を横に振った。見てみたくもあるが。  屋敷に着き、出迎えた使用人に上着を渡す。昼食を適当に済ませたせいか、腹が減っていた。 「おかえりなさい、タイチョーさん」  階段の上から声をかけてきたのはリシェだった。いつもと変わらずの無表情だが、そこには確かな疲労感が浮かんでいる。手すりに体重を預ける姿は、いかにもだるそうだ。   「リツはどうだった?」 「どうもこうも、ようやく寝てくれましたよ。両手足縛って、部屋に鍵までかけて」 「……何か食べたのか?」 「無理矢理ね。信用されているわけではなさそうですけど、僕の言うことは少しは聞いてくれるようです」 「そうか」  同じナゴ族同士、通じるものがあるのだろうか。リシェから鍵を受け取り、部屋へと向かう。そうっと中を覗いた。  昨夜と同じ場所、窓際の隅の方で丸くなっている姿があった。ゲルニアの買い与えた服を着ている。そして何かを抱き寄せている。そろりそろりと近づけば、それもまた自分の買ってきた服だった。  目元は赤く腫れてはいるが、呼吸は深くゆっくりとしたものだった。寝入っているようだ。  ゲルニアは無言のまま、また廊下に出た。リシェが腕を組み、壁にもたれ待っていた。 「あれは……」 「昼間に少し色々ありまして。別の場所で話しましょう。僕もまだ夕食食べれていないんですよ」 「すまんな」  どうやら相当に負担をかけたようだ。ゲルニアはリシェを労い背をたたきながら別室へと向かった。  ゲルニアはそこで自分が不在の間の出来事を聞いた。  指の腹にできていた傷のせいで服を汚してしまい、一悶着あったそうだ。結局、ヒルメが洗濯をし、元通りになったようだが、以来、ああして服を離さなくなってしまったそうだ。 「何にやけてるんですか。大変だったんですよ。ずっと泣き続けてですね。縛らないと眠ってもくれないし」 「いや、そこまで大事にしてもらえたんなら贈り主としてはありがたいというか」 「変態」 「は」 「見ましたからね、あんな下着はけませんから」 「はい」  おっしゃるとおりでした。  ゲルニアは、空になった皿の中に、フォークとナイフを揃えて置いた。リシェはリシェで食事は終えたらしく、皿を避け両肘をつき、前のめりに話を続ける。 「食事を持って行っても、『大丈夫』の一点張りで、口を開けようとしない。『食べてくれないと怒られるんだ』とか言ったら、それでようやくです。あまりに青ざめながら食べるんで、そこまで無理はさせませんでしたが。明日、もう一度、お医者さんに来てもらっては?」 「考えておく。が、できれば、せめて、リシェや俺に慣れてからの方がいいだろう。余計に参りそうだ」 「ああ、そういえば、『もう少し、人間慣れさせてから呼べ』って怒ってました、あの人」 話の内容は面白いものではないが、これだけよく話し、感情を露わにするリシェの様子は面白い。うっかり笑んでしまいそうになるも、ゲルニアは、努めて真顔を保った。 「様子をみるか。食べないわけではないし、睡眠もとれているようだし。今日で諸々急ぎのことはやってきたから、明日はずっと傍にいられる」  今日1日で溜まっていたものを、幾分ははき出せたのか、リシェは椅子に座りなおした。 「リツを売っていた店の主に会ってきた」 「ああ、あの縛り癖、どうにかなりそうですか?」 「残念ながら、その癖の原因はわからないままだった。ただ、前に触れないってのはブズのしつけのせいらしい。次の発情期までの時間はわからないが、なんでも少し前から甘い香りがしてくるんだとか……そういうものなのか?」 「ああ、自分ではよくわかりませんが、僕のご主人様も同じようなことを言っていましたし、そうなのかもしれませんね。僕もご主人も、だいたいの時期は把握していますが」 「次のそれまでに、縛り癖をどうにかしてまともな発情期の迎え方を教えてやらないとな」  あの、触れるだけで、全身を振るわせていたリツが、平常の状態でどのような反応を示すのか楽しみでもある。昨日少しだけ試してみたが、反応自体は敏感だったが、目には不安と緊張が色濃く現れていた。 「――珍しく楽しそうですね、変態」 「お前こそ、珍しく、『ご主人様』以外のことに頑張ってくれているようだな。いいと思うぞ」  ゲルニアはにっこりと笑い、リシェは憮然とした様子で目線を逸らした。

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