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第11話 山本先輩2

(葵語り) 「あー、伊藤 葵、やっぱここにいた。この幽霊部員、今日こそ部活に絶対来いよ。」 突然扉が開いて入ってきたのは、サッカー部副部長の山本先輩だった。 山本先輩は、ルックスからサッカー部のアイドルで女子にモテモテだからいつも噂が絶えないイケメンである。そんな人が俺に部活へ出ろとわざわざ言いに来たのだろうか。 「山本、何しに来たの?くだらない理由ならすぐ帰ってもらうよ。」 熊谷先生は、頬杖をついたまま怠そうに言った。なんか先輩に対する扱いが雑な気がする。 「熊谷先生、こいつ全く部活にこないんすよ。もうすぐ大会で、人数が足りないから伊藤には絶対出てもらわないと。スタメンじゃないですけど、いなくては困る。」 最近部活はサボリがちで、どうしても優先順位が下の方になってしまう。熊谷先生が訝しげに俺を見た。 「それはよくない。伊藤君、サボるのもほどほどに。放課後は部活で健全に汗を流そう。高校生らしく健全にな。」 熊谷先生が右首筋のバンドエイドをするりと指でなぞった。ここへ貼っていることに気付いていたんだと、恥ずかしくなって思わず下を向く。先生に無理矢理付けられたキスマークが、かなり濃く残っていたのだ。バンドエイドも目立つが、キスマークを人目に晒すよりはいいと考えた苦肉の策だった。 「あの……これは虫に…」 「ふうん。虫ねえ。そんなに大きな痣を虫が付けるんだ。」 俺と熊谷先生のやり取りをじっと見てた山本先輩が、興奮気味に口を開いた。 「お前、部活をサボるのはそうだったのか。女なのか?そうか。やっぱ綺麗な顔した奴は女が寄ってくるんだ。」 女…というか……なんというか… 熊谷先生が笑うのを必死でこらえている。 何で笑うの?笑う所じゃないよ。 それに山本先輩は俺と比べるまもでもなく人気者だろう。 「いえ、女じゃなくて……」 「伊藤君、素直過ぎる。そこまで言わなくていいから。」 熊谷先生がお腹を抱えて笑い出した。 んもう、そこまで笑わなくてもいいのに。 「山本、伊藤君が部活をさぼらないように、引きずってでも連れて行ってやってくれ。高校生は女より部活だよな。」 「ええ。熊谷先生も分かってますね。まったくその通りです。伊藤、俺が教室まで呼びにいってやるから一緒に行こうな。サッカーしようぜ。ボールは友達だ。」 「…………は、はぁ……」 ちょっと熱くてウザい先輩だけど、話してみるといい人だったりした。この日から山本先輩により毎日部活へ連れていかれることになり、不本意ながら真面目な高校生をやることなった。

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