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第13話 涙のキッス2

(葵語り) 熊谷先生からは煙草とお日さまの匂いがした。 「泣いてごらん。スッキリするよ。伊藤君は何も悪くない。悪いのは猪俣だ。」 「……うぅ……ぐず……うぅ…」 後ろからぎゅっと温かい感触がして、掛けられた優しい言葉に涙が溢れてきた。 あとからあとから大粒の雫が落ちてくる。 号泣してる姿が格好悪くて、後ろを振り返ることができなかった。 どれくらい泣いてただろうか。 いつの間にか、外の声も聞こえなくなっていた。それに授業が始まっている。 「伊藤君。おーい、いとうくーん。」 熊谷先生が耳元で俺の名前を読んだ。 顔が涙でぐちゃぐちゃで、答えることができなかった。 それに……心臓があり得ない位ドキドキしている。熊谷先生相手にどうしたんだろうか、緊張している。 「………………………」 「葵、こっち向いて。」 「…………え、あおいって。」 いきなり名前を呼ばれたので驚いて振り返ると、熊谷先生が俺の頬を両手で包んだ。 向きあって、額を刷り合わせる。 「涙がいっぱいだね。可愛い顔が台無しだ。」 むにょーんと頬を横に引っ張られる。 たぶん今の俺は本当にブサイクだ。鼻水をずずーっと吸ったら、くすりと笑われた。 「やめてくらはい。」 「やめない。」 熊谷先生が涙をペロリと舐めとった。 「しょっぱいな。」 再びペロリペロリと舌が頬を滑る。 「ふふふ、くすぐったいです。」 そして熊谷先生は、ひとしきり舐めたあと、俺に触れるだけのキスをした。ごくごく自然の流れに、されるまで気が付かない位だった。 「びっくりした?不意打ち。」 「……………」 ものすごくドキドキして上せたように顔が熱い。 だけど、もっとキスしたい。もっと欲しい。 思わず俺は熊谷先生の顔に手を伸ばしていた。 ぐいと引き寄せ、背伸びをして唇を重ねる。熊谷先生は俺の行動に驚いたみたいだったけど、無言で応えてくれた。 「ふぅっ………は……んっ………」 生暖かくて苦い舌が俺の中に入ってくる。 くちゃくちゃと唾液の混ざる音が頭の中に響いた。大人に敵う訳はなく、熊谷先生に身体を預けるように、されるがままに翻弄されていた。 強いのと優しいが交互でやってくる。 次第に腰がふにゃふにゃとなり、立っていられなくなった。

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