17 / 124

第17話 夏休みと小旅行1

(葵語り) 長い夏休みが始まった。 午前中は補講、午後は部活で、まるっと1日中、学校に居ることになる。 ただでさえ暑くてだるいのに勉強なんかやってられない。授業が全く頭に入ってこない。 セミの声と、窓から見える青空。 夏の空は低くて色が濃い。 午前中の補講から寝てしまいそうだった。 熊谷先生とは廊下ですれ違った時、何度か話をした。にやにやしながら、 「高校生らしくていいね。勉強と部活の両立。太陽の下で汗をかきなさい。」 と言われ、ムカッとした。 意外なことに、サッカー部の山本先輩も補講を受けていた。大会が終わったので部活は引退している。先輩に聞いたら、俺は理系だからちょっとくらいならいいんだって、モゴモゴ言っていたが、受験生なら尚更よくないんじゃないか。 「あのさ、伊藤ちょっと聞いてもいい?」 補講終了後、片付けをしていたら山本先輩に話しかけられた。 「なんですか?」 山本先輩は、俺の前の席に座り、くるりとこっちを向いて話し出す。 「お前さ、男同士とかの恋愛ってどう思う?」 「なっ……んで、それを俺に……」 もしかしてバレたかと、一瞬焦った。 「この前、首にキスマーク付けてたろ? お前の雰囲気からして年上だろうなぁって。だけど、あんま幸せそうに見えないし、年上の女がいる伊藤なら、色んな意見が聞けるかと思ったんだ。キャパが広そうだし。」 この人、めちゃくちゃ鋭い。女以外全部当たっている。あまり幸せじゃないのも…悔しいけど当たっている。 「別に恋愛は本人同士がよければいいと思いますけど。性別に拘るのは抵抗がある人だけですよね。」 「そうだよな。俺さ、この間見ちゃったんだよね。裏庭で男同士が抱き合ってるの。 1人しか顔見えなかったんだけど、たしか2年の島田ってやつ。お前のクラスじゃない?」 「島田?下の名前分かります?」 「うーんとなーー、島田なんだっけなーわからん。結構有名人だぞ。伊藤は興味がなさそうなものにはとことん無視だな。」 島田……わかんないや。同じクラスにそんな奴が居たんだ。 後で熊谷先生に聞いてみよう。 あの人はそういうセンサーに敏感だから知っているに違いない。 「伊藤、年上の女ってどうなの?やっぱ同世代よりいいの?」 「えっ、まあ、同級生とかよりは、落ち着いていいですけど……」 あんまり聞かないでほしい。女知らないし。 偉そうに言える立場でもない。 「いいなーー。俺も年上の彼女ほしいなー。」 「先輩はよりどりみどりじゃないですか。モテモテでしょう。」 「そんなんじゃなくて、1人だけでいいから唯一の俺だけを愛してくれる人が欲しいの。」 唯一の自分だけを愛してくれる人は、俺も欲しいです。

ともだちにシェアしよう!