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第18話 夏休みと小旅行2
(葵語り)
「島田?島田真理 のこと?」
廊下で熊谷先生に会ったので早速聞いてみる。
やっぱり知っていた。生活指導で生徒の名前は覚えているらしく、すぐに言い当てたので、さすが熊谷センサーだと感心した。
「お前、たしか同じクラスじゃなかったか……知らないのか。」
「ええ……まあ。」
知らない。ハルトとかサッカー部の奴しか顔も名前も思い浮かばない。
「葵は、自分の周り以外見てないもんな。あいつは目立ってるよ。色々問題を起こして有名だし。先生の間でも、もちろん他学年でも。」
「目立ってるって、ヤンキーなんですか?」
俺のヤンキー発言に熊谷先生が大笑いをした。
「ヤンキーって。違う違う。葵は面白いなー。
あいつのことを本当に知らないんだな。
島田はね、男女ともに遊びが激しくて……俺から見たら、葵と種類が似てると思うよ。
なんか、儚いっていうか、艶っぽい空気を持ってるところが同類。言っちゃなんだけど、その辺の女の子よりは綺麗だ。」
明らかによくないヤツと同類。
また儚いとか艶っぽいとか俺が嫌いな表現を使ってきた。ムッとしながら熊谷先生を見上げる。
「知らないけど俺とは似てないと思います。その表現もやめてください。」
「新学期が始まったら、話しかけてみたらいい。案外気が合うかもよ。」
気が合う予感すらしない。
複雑な表情の俺に、熊谷先生がにっこり笑った。
「あっそうだ、葵。」
話を終えて立ち去ろうとしたら、呼び止められる。
「夏休みは忙しい?補講が終わって追試をクリアしたら、ご褒美にどこか連れて行ってあげるよ。」
俺が答えに困ってると、熊谷先生は頭をポンポンと叩いて言った。
「この間、俺が好きって言ったこと気にしてるんだろ。気にしなくていいから。何もしないよ。気晴らしにどっか行こうって誘ってるだけだよ。神に誓って手は出さない。」
実は自分の中でこの感情をどう処理していいか分からなくて、学校以外の場所で会うと余計意識してしまいそうで、考えあぐねていた。
「………ご褒美なら、美味しいものとか、食べたいです。」
「よし、じゃあ、美味しいものを食べに行こう。」
日にちメールするからと約束して、熊谷先生と別れた。
その前に追試をクリアしないといけない。
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