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第24話 レモンキャンディ3
(島田真理語り)
公園には他に誰もいなかった。
辺りを確認して、信一が話を切り出す。
「あのさ、俺さ…やっぱりお前……真理 のこと好きだからさ、付き合うとか、もう一度考えてほしい……それに……」
はぁーーうざい。うざい。うざい。うっとおしい。付き合えないってこの間言ったでしょうが。断ったにもかかわらず、学校にまで来て同じことを繰り返すとか、あり得ないんだけど。
ものすごくイライラする。しかも一通り話し終えてから、信一が伊藤君を指差して
「真理、こいつ誰だよ」
今更ながら指摘したのにも、苛立ちが募った。
そういう気の利かない自分本位なところも嫌いだ。まあいいや。僕のやり方で断ろう。
「あのね、この人は僕の新しい恋人。僕たちはこういう関係なの」
僕は信一に見せつけるように、伊藤君にキスをした。彼は少し背が高いので、ちょっとだけ背伸びをして、両手で覆うように唇を吸う。
言葉を失う信一と、何をされたのか分かってない伊藤君。思いの外、伊藤君とのキスは気持ちが良かったので、舌も入れてみた。
最初は応えてくれたけど、途中で正気に返ったみたいで拒否される。
「こんなところで、やっ…め…ろっ」
僕を突き放して、最もらしいセリフを吐いた。
これでますます僕たちは恋人関係に見えるだろう。ありがとう、伊藤君。
「こういうことだから、信一とは付き合えない。行こ」
ガーンって言葉を顔で表したらこんな感じなんだ。初めて見た。はい、これでおしまい。
立ち尽くす信一を公園に残して、僕は伊藤君とその場を後にした。
「島田君、ちょっと。」
手を引いて歩いていると、伊藤君が急に立ち止まった。
「さっきの何?あれ誰?突然何なんだよ」
「兄ちゃんの知り合いで、信一っていうの。何回か寝ただけなのに、付き合ってくれってしつこくて。断るのに伊藤君に協力してもらった」
「…………俺の役目は終わりだね。帰る。」
僕の話を聞いても驚かず、踵を返して帰ろうとした。伊藤君って……案外凄いかも。
「待ってよ、伊藤君」
追いかけて回り込み、グイっと手を引っ張る。
「何?」
「協力してくれたお礼に何か奢るよ」
「いらない。帰る」
伊藤君は面白そうだから、もうちょっと遊んでいたい。帰れない状況を作れば一緒に居てくれるかもしれない。何より、お人好しの性格を僕は見抜いていた。
「あーーーーやばい。信一に家を知られてるから、追いかけてくるかも。殴られるっ」
思い出したかのように芝居がかった演技を見せた。頭を抱えて悩んでみる。
「殴るような人に見えなかったけど」
「伊藤君は知らないんだよ。あいつはスイッチ入ると止まらなくなるんだ」
伊藤君の動きが止まった。
うふふ、考えてる。考えてる。
「じゃあ……家まで送ればいい?」
にへらぁと頬が緩むのが分かる。今の僕、きっと悪い顔をしている。
「送ってくれるの?ありがとう」
「言っとくけど、無事に送ったらすぐに帰るから」
そして僕の家の方向へ一緒に歩き出した。
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