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第30話 さようならこんにちは2

(葵語り) 島田にあんな事をされて、クラスメイトだし友達だもんね、などと思うことは微塵もない。 昨日のことを熊谷先生に知られそうになり、咄嗟にあいつを思いっきり殴ったが、まだまだ足りない。島田と行動を共にしても何一つ得なことが無いと思うのに、俺は奴を突き放すことができなかった。 島田は『葵君がエロいのが悪い』と、あっけらかんとして言うので、拍子抜けして憎めなかった。 夏休みに入る前から猪俣先生には会っていない。何回かメールが来たけど、用事を理由にして断っていた。さすがに毎回断っていると鈍い人でも気付くと思う。 猪俣先生に会ってしまうと情が湧いて、絶対に離れられなくなることは分かっていた。 なし崩し的に体の関係を持つのも嫌だった。 この関係を終わりにしようと決意した。 決心するきっかけは、熊谷先生だ。 俺は熊谷先生が好きだ。 昼休みに頷きながら俺の話を聞いてくれる、あの笑顔が好きだ。終わったら、はい次っていうのも都合が良すぎるから、そういうつもりは無く、猪俣先生と終わりにして、改めて熊谷先生と向き合いたかった。 意を決して、猪俣先生と話しをするためにメールを送ったけど、返信が一向に来ない。 たぶん向こうも薄々気付いている筈なのに、何故何にもリアクションが無いのか分からない。 終わりにするのが嫌だとか? 自分に都合のいい相手だから、手放したくないとか、そういう理由だろうか。 大人ってみんなそういうものなのかな。 都合が悪いことから逃げるって卑怯な行動だと思う。 「葵君と熊谷先生ってどんな関係なの?」 いつもの昼休み、島田がパックジュースをちゅーと飲みながら、面倒くさいことを聞いてきた。 今日は熊谷先生がいないので、教室で島田と昼食を食べていた。最近では俺が根負けして島田と行動を共にしている。俺達2人は一段とクラスで浮いた存在になった気もしない訳ではない。 「ただの生徒と先生だけど」 「そうは見えないよ。じゃあ、なんで昼ごはん一緒に食べてんの?」 「そんなこと、島田に話すことじゃない」 「けちー。僕も仲間に入れてよ」 仲間……仮に仲間だとしても島田は入れない。 机の上で頬杖をついて奴は続けた。 「葵君もさ、人が悪いよね。熊谷先生の気持ちに気付いているんでしょ? で、他にも好きな人いるんでしょ。小悪魔だねー。やるねー」 言い返す語録が俺の引き出しになかった。 こいつ、むかつくけど言い当てるところがある。そして俺より経験値が高い。 「熊谷先生はモテるから誰かに取られちゃうよ。じょしこーせーは健気だから、負けるよ」 「うるさい。わかったような口をきくなって」 くるくると指を回しながら島田に痛い指摘を受けた。途中から言っていることが的を得すぎて耳に入ってこなかった。

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