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第35話 さようならこんにちは7
(葵語り)
泣き終わると、かなりの時間が経っていて、急いでサッカー部の模擬店へ戻る。
温かい胸の中でうっかり寝そうになってしまい、熊谷先生には迷惑を掛けてしまった。不安に押し潰されそうだったから、そういう厚意はありがたい。いつもこの人は一回りして俺を待っていてくれる。しかも全くお節介には感じないのだ。
旧校舎を出るまで、熊谷先生と手をつないでいた。大きい手は俺を明るい光へと導いてくれるような気がして、何度も握り返した。
別れ際、熊谷先生はきゅっと両手を取って俺と向かい合い、諭すように俺の目を見た。
「いつでも話は聞くから、泣きたくなったら言うんだぞ。約束だ。辛かったら我慢せずに相談しろよ」
「……はい。ありがとうございます」
「また泣きそうじゃないか。揶揄われるぞ」
こういう所だけ得意げに教師っぽくなるんだね。俺は生徒らしく素直に言葉を受け取った。
これから泣きたくなることも、思い出して辛くなることもあると思う。
だけど、それは自分が選んだ道だ。
受け入れて歩いていくしかない。
それを含めて自分なんだ。
殆どのことは時間が解決してくれると、熊谷先生が言っていた。
外に出たら澄んだ空気に清々しい気持ちになった。すべてを包んでくれるような柔らかい風が涙を乾かしていく。
うろこ雲が秋の空に広がっているのを仰いで、俺は歩き出した。
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