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第38話 犯人は誰3
(島田真理語り)
いきなり起き上がった僕に、加瀬先輩は拍子抜けしたような表情をして固まった。
「真理、どうした?何かあった?」
「先輩……誰か……覗いてる。」
指を差して言うのが精一杯だった。
「えっ、マジでか」
「ほら、あそこを……見て」
先輩と共に振り返ると、バシっとそいつと目が合った。どっかで見たことがあるような、ないような……分かんない。
絶対に追いかけて捕まえると思い立ち、乱れた服のまま僕は起立した。シャツも肌蹴ているし、股間も半勃ちだけど、怒りがそれに勝った。絶対に盗み見泥棒を逃さない。
「おいっ、まさみちっ、待てよっ。」
待たないっ。
加瀬先輩の声を背に弾かれたようにドアを開けて、僕は全速力で駆け出した。
「こらぁぁぁぁぁ、待てよっ」
使っていた教室が1階だったので、すぐに奴を視界に捉えることができた。同時に走り出したので僕も全速力で後を追う。ヤツの足は思ったより速いため、距離が開いてきた。向こうも本気だ。
僕も必死で追いかけるが、息が上がって心臓が爆発してしまいそうになる。体育ですら真面目にやらない僕は、既に自分の限界を超えていた。思った以上の全速力に自らが驚くほどだ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
絶対逃がしたくない。
酸素不足のせいか、周りの景色が歪んで見える。ヤツも必死なんだろう、全然速度が変わらない。裏庭を抜けて、旧校舎を抜けて、グランドが見えてきた。
距離がさっきよりは縮まった気がする。
もう少し……
だけど、普段走る事なんてあまりない僕は、すでにバテバテになっていた。足がガクガクして、背中がにわかに痛い。
し、しんどい。ここで逃してしまったら死ぬほど後悔をする。でももう走れないかも……
弱音を吐きそうなった時、ヤツが転倒した。スローモーションのようにゆっくりとすっ転び、ズシャッと土にぶつかる音を立てたのだ。
うわっ、痛そうだ。
よっしゃー、捕まえる!!
テンションが上がり、最後の力を振り絞って僕は奴に突っ込んだ。
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