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第40話 犯人は誰5
(熊谷先生語り)
職員室で巨乳の山崎先生と来年度の予算について話をしていたら、目線が胸にばかりいって……じゃなくて、島田に呼ばれた。
一体何の用かと思い廊下へ出ると、奴はシャツのボタンが全開で汗だくのまま、はあはあと荒い息で立っていた。
唖然としている俺の前には、無駄に色っぽい島田と蛇に睨まれた蛙のように縮こまっている山本が突っ立っている。元サッカー部の山本は、葵と一緒に夏休みにバーベキューへ連れていっていった仲だ。受験生の筈だが、まだ帰らずにふらふらしてんのか。
「島田、用件は何だ。それに山本も」
島田の顔が引きつり、山本を一瞥した。
「熊谷先生、この人、山本って言うんですか。この人ね……」
島田が得意げにキスだのセックスだの職員室前で言い出したので、大慌てで場所を生徒指導室に移動した。
で、今に至る。
「だから、加瀬先輩とセックスしようとしてたら、この山本とかいう人が覗き見してたんですってば、人のセックスを見ていたのぉっ。犯罪でしょうが」
バンバン机を叩きながら、島田が怒っていた。
突っ込みどころが満載すぎて、どうしたらいいのかさっぱりわからない。何を言ったら島田の心に響くのか考えるのも無駄な気がしてきた。
このアバズレをどうしたらいいんだ。
あまりの自由さにため息が出る。こんな風に育ってしまって、お兄さんが泣くだろうよ。
俺だって泣きたい。
「まず、島田はどうして俺の所に来たんだ?」
「先生は生徒指導担当だから、この山本っていう人を指導してほしくて」
俺は、島田の指導から始めなければなるまい。覗き見してしまうのは、ある意味しょうがないというか、人の性というか。
「島田。まず服はちゃんと着ろ。そして、学校でセックスをしてはいけない」
「えーーーなんでぇー、みんなしてるよぉ」
これが真面目な受け応えだから恐ろしい。
本人は一切悪いとか、恥ずかしいとか思っていないのである。
「馬鹿か。みんなするわけないだろ」
「いや、してると思うし。隠れてやってるよ」
「やってません」
小学生が欲しいものを親にねだる時の『みんな持ってるもん』のみんなと同じ感覚だろうか。
島田は、山本が悪い悪いを連呼して、自分のことは棚に上げていた。
こいつには、道徳感が全くない。
俺的にはそんなことを学校でする行為が、覗く人よりよっぽど悪いと思のだが。
「山本って人、二回目なんだよ。覗くの。だから僕もむかついたっていうか、許せないんだよ。邪魔されて最後まで出来なかったし」
見る方もそれなりに悪いのかもしれないと、ほんの少しだけ島田の気持ちを汲み取った。
「山本、島田の言ってることは本当なのか?」
下を向いていた山本がゆっくり頷いた。
いつも元気過ぎて頭の弱い奴が項垂れている。島田よりも山本の話を聞いてやらねばならない気がした。
1度踏み込んだら闇に喰われそうで、俺はうんざりしながら話を振ることにした。
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