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第42話 君を愛したい1
(葵語り)
「ねぇ、葵」
昼休み、熊谷先生が窓際で煙草を咥えながら俺の名を呼んだ。半分開いた窓から煙を逃がすように吸っており、目線は空を見ている。全身筋肉痛で島田が休みのため、久しぶりに2人の生徒指導室だった。先生越しの空は、青く澄んだ秋らしいうろこ雲がたゆたっていた。
「今週末、どっか行かない?」
「…………え…………」
いきなりのお誘いに驚いて言葉に詰まっていると、煙草を消して熊谷先生が近付いてきた。
「そろそろ、前に進んでもいいかと思うんだ。猪俣のことも一応終わっただろう。気分転換にドライブしないか」
猪俣先生との関係を終わらせてから1ヶ月が経つ。お陰様で底辺は脱し、涙は出なくなっていた。でも、ぽっかり空いた穴はすぐ埋まることはなく、ぼんやりすることは多い。
前が終わったから、すぐ次の人と付き合おうとは思えなかった。一体いつになったら忘れることができるのだろう。つくづく俺の脳みそは都合よく出来てないと思う。
「え、えと……あの……その……」
言葉に詰まった。行っていいものか、悪いものか、猪俣先生と不倫していた自分に言えた義理はないけど、もうちょっとコソコソしたほうがいいんじゃないかな。
「何悩んでんの。葵は俺のこと嫌い?」
「嫌いじゃないですけど……」
「じゃあ行こうよ」
決まり、と熊谷先生は笑った。
強引に決めてしまわれて、何も言えない。
「あのさ、今更隠さなくてもいいんだよ。俺は葵が好きだし、葵は俺のことが嫌いじゃない。迷うこともないだろう」
「は、はぁ…………」
『好き』と普通に会話で口にする熊谷先生は、顔色一つ変えずに俺へ話しかけてくる。俺はその言動一つ一つに心臓が跳ねて、振り回されていた。知っていてわざとやってるのではないかと疑いたくなるくらい、熊谷先生は俺のポイントを突いてくる。
「どこがいいかなー、俺はあんまりデートとか気合い入れてやらないんだよ。葵は行きたいところある?」
「…………と、特にないです……」
スマホを弄りながら、あーでもないこーでもないと先生は調べていた。
そう言えば今までデートらしいデートなどしたことがなく、人生初体験なことにわくわくした。
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