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第44話 君を愛したい3
(葵語り)
トンネルを抜けると反射光で視界が眩んでしまう。爽やかな秋晴れが大きな水溜りを温めているように水面が金色に輝いていた。日曜日にも関わらず、砂浜には誰もいない。
車を降りると、強く吹きぬける冷たい風に身震いした。薄いTシャツにパーカーという薄着な格好で来てしまったことを盛大に後悔する。
「さむっ」
「葵は薄着なんだよ。これを貸してやるよ。俺はこれを着るから」
熊谷先生が自らのカーキ色の厚手のカーディガンを脱いで俺に手渡した。
「ありがとう…………」
礼を言い受け取ると、先生は車から違う上着を取り出していた。借りたカーディガンは、あったかくて、少し大きくて、熊谷先生の匂いがした。煙草の香りも少しする。
「それに、葵はもうちょっと筋肉付けて体重を増やした方がいいぞ。ここら辺とか特に華奢に見える……うんうん、思った通り細い」
「ひゃぁ、急に触らないでください……び、びっくりしますから」
突然腰のあたりを触れられてムズムズした。言うほど俺は細くないと思う。島田に比べたら全然だし……と思っていたら、また突風が吹き抜けて、寒さに身震いした。
すると熊谷先生が、ほらとアウターの左のポケットを広げたのだ。
ここに入れろってこと?
俺が見上げると、先生がにっこり笑う。
「寒いが苦手なんだな。ぎゅーってしてあげたいけど、今はポッケだけ」
ぎゅーって………
恥ずかしいことを普通に言われるとこっちが照れる。お言葉に甘えて、ポッケの中で手を繋ぎながら、浜辺へ降りていった。
途中から、先生と離れて砂浜を散策することにする。先生は座って煙草を吸いながら俺を眺めていて、手を振ると目を細めて振り返してくれた。
ザザーンと寄せる波に耳を済まし、腕を広げて目を閉じる。生きていれば色んな人に出会って、楽しいことも巡ってくる。自暴自棄にならなくてよかった。猪俣先生とお別れして、視野も世界も広がったから、別れは悪いことばかりではない。潮の香りに心が洗われるようだった。
「おーい、佑樹じゃない?そうだよね。やっぱり佑樹だ〜〜、久しぶり〜」
後ろからクラクションと共に声がしたので振り返ると、車の中から長い髪のきれいな女の人が熊谷先生の名を呼んでいた。
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