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第45話 君を愛したい4

(葵語り) 「おー、久しぶりじゃん」 「やっぱり祐樹だー、何年ぶり?」 先生が立ち上がり、車の方へ駆け寄っていくと、女の人と楽しそうに世間話を始めた。 ここは地元なんだし、友達にも会うだろう。 先生は、それなりに恋愛も色々経験してる訳で、当たり前のことだけど俺とは違う世界にいる。友だちのいない俺とは真逆で、沢山の人に囲まれていただろうと安易に想像ができた。 熊谷先生はいつも光の中を歩き、華やかで優しいものに包まれている。 でも、どんなに頑張っても、俺はその輪に入れないのだ。 俺と先生の人生は交わらないのかもしれない。 15分ほど立ち話をして先生が戻ってきた。散策を止めて座っていた俺の横に腰掛ける。 『あの人は誰?』とか、おこがましくて聞けずにいると「さっきの子は小学校からの同級生で……と先生が話し始めた。 「葵には隠したくないから言うけど、高校の時の彼女。3年ぶりに会って驚いたよ。すっかりお母さんだった」 いつの間にか雲に隠れた太陽と湿気を含んだ潮風が、俺の体を静かに冷やしていく。 「そうですか。綺麗な人ですね………」 はっきりと違いを突きつけられてしまい、俺の口調は素っ気ないように聞こえたかもしれない。確かに面白くなかった。 俺に好意を寄せてくれているのも、一時の気まぐれかもしれないとまで思ってしまう。それくらい熊谷先生が遠い存在に感じたのだ。 「……………もしかして怒ってる?」 「怒ってません……」 「怒ってるでしょ」 「別に怒ってません……」 「怒ってるじゃん。参ったな……葵には俺の全てを知ってもらいたいから隠し事をしたくないんだ。昔は昔。過去の自分は否定しないけど、今の俺は君にしか向いていない。教師が生徒相手にこんなこと言うのはおかしいと思われて当然だけど、俺は葵を大切にしたい。真剣なんだ」 「………………」 俺は訝しげに熊谷先生を見つめた。 そこにいるのは、教師ではなく、俺と向き合おうとしてくれる1人の人間だった。 「………今言ったこと、本当ですか?信じていい……?」 熊谷先生は頷いた。 「まだ伝えきれないくらい、君が好きだよ」 今まで生きていて、こんなにも大切に他人から思われたことも、優しく包み込まれるようにされたこともない。恋とか愛とか不確かなものを再び信じていいのかなと17歳の俺は思う。だけど、目の前の人が愛しくて一緒に居たいと願っている。 信じてもいいのかな。 与えてもらうということは、幸せなんだな。 こんなに心地よい場所があるなんて知らなかった。

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