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第47話 熊谷先生の憂鬱1
(熊谷先生語り)
朝起きて煙草を吸いながら、ぼんやりとテレビを眺めていた。テレビに記された今日の日付が、昔付き合った女の子の誕生日だったことを思い出す。
やたら記念日にこだわる子で、特に誕生日は大変だった。気に入らないと機嫌が悪くなるので本当に苦痛だった。
結局それが負担で嫌になり別れた。
そんなことを今思い出したところで、何の得にもならないが、ここのところ過去の恋愛を振り返って、自分の何が悪かったか考えることが多くなった。
テーブルのスマホを確認する。
メッセージも着信もない。
葵から何のアクションもない。
付き合うことになったのに、葵からは何も連絡が来ない。先生の恋人になりたいと言っていたことは嘘だったのかと、何度も自問自答した。年甲斐もなくドキドキして、覚悟を決めて教職に反することをしたのに、反故にされるのだろうか。
あんなに甘い告白が存在するかと思うくらい気を遣った。愛しいと思うからこそ言葉を選んで伝えたし、大切にしたい気持ちを国語の弱い葵に優しく説いたつもりだ。
あの表情は絶対に受け入れてくれた表情だった。
なのに、かれこれ二週間経つが、俺が送信しないと返信がない。電話も同じ状態だ。メッセージも素っ気なく、単語や一文で終わるものばかりだ。
昼飯も見つかると大変だから別々で食べたいと葵が言い出し、昼休みに会うこともなくなった。担当学年も違うので学校内で顔を見ることも少ない。おまけに、テスト期間中で部活も休みだから、姿も全く見かけていない。
完全な葵不足だ。
本当に葵は、俺のことが好きなんだろうか。
俺が無理矢理言わせたのではないのかと、そんなことまで考えるようになった。
一人でいるとロクなことを考えない。
俺は仕事へ行くための支度をのろのろと始めた。
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