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第48話 熊谷先生の憂鬱2

(熊谷先生語り) 職員室に着くと、ある話題で持ちきりだった。 巨乳の山崎先生が教えてくれた内容は3年担任の木村先生が女子生徒と親密な関係にあったという非常に耳の痛い内容だった。 不審に思った女子生徒の親が教育委員会へ直接訴えたものだから、事態は更に大きくなり木村先生は窮地に追い込まれている。 似たようなことが身に覚えがあるが、俺は葵に親密なことをまだ何もしてない。キスなんて挨拶みたいなもので、大人のそれとは違う。 葵は線が細いが男の子だ。抱きしめた感触も女の子とは違い、丸くなく角張った感じがして、背も低くない。 なのに、ふわりと漂う色気があり、それは常に俺を困惑させる。健全な男だったら服の下はどうなっているかと妄想する訳で、いつか見せてくれる日が来るのだろうかと、童貞みたいなことを考えていた。 「熊谷先生……聞いてます?」 しまった。意識が違う方向へ向いていた。 山崎先生の話の途中だった。 「すみません、何でしたっけ?」 「木村先生、懲戒免職でしょうか。あんなに教育熱心なのに残念です」 「難しいですね。こんなに大事になれば、退職は免れないんじゃないでしょうか。」 「惜しいことをしました。嘘だといいのですが……」 と、山崎先生は心配そうに嘆いていた。 もし俺が同じ立場になったら、心配どころかぶっ飛んで軽蔑するだろう。 そして口もきいてくれなくなり、俺は一生汚点を付けたまま生きていくのだ。 教師という仕事は、つくづく損な役回りだと思う。頑張っても生徒達の記憶に残るのは、ほんの一握りで、あとは風景と化していく。 些細な事を大ごとにされて、人間失格のレッテルを貼られてしまい、社会から追放される。 俺も、周りにいる他の先生も歯車の中の部品でしかないのだ。 なりたくてなった訳だし、ある程度は覚悟していたが、巣立つ生徒の未来が時々羨ましくてしょうがないと、頬杖をつきながら思った。

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