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第49話 熊谷先生の憂鬱3

(熊谷先生語り) その日の3限は、授業が無くデスクワークをする気にもなれず、久々に屋上で煙草を吸うことにした。 屋上に行くといけないことをしている生徒が少なからず存在するので、それを注意するのも俺の仕事だからだ。一応生徒指導担当である。 キィ………… 施錠しているはずの鍵が開いていた。何者かが合鍵を持ってるんじゃないかと思うくらい結構な頻度で開いている。 確実に誰かいるな。 屋上は太陽の光がめいっぱい降り注いで眩しかった。汗ばむくらいの陽気に青空を仰ぐ。 散策はさて置き、フェンスにもたれて先ずは一服をすることにした。葵は授業を受けてるのかなと、先程の続きを考えようとしていたら、どこからか声が聞こえてきたため思考は強制的に遮断された。 「ねぇ、キスしない?」 「えっ??お前に?」 「そうだよ。僕以外誰とするの。ほらぁ、口開いて」 「ちょ、ちょっと…………待って……」 「待たない」 この声は聞いたこともあり、2人とも知っている。つい最近、説教をした奴らに間違いないと思って覗くと、声の主はすぐ側にいた。 「島田よ。山本連れ込んで何してんの。誰も来ないと思ったか」 「ひゃっ、熊谷先生っ」 フェンスに座ってくっついていた島田と山本は弾かれたように離れた。 とりあえず、服は乱れてないので安心する。見境ない島田には山本ですら獲物になるらしい。 「熊谷先生こそ何してんの?」 俺が1番嫌いな、質問に質問で返す質問返しをやってきて少々腹が立つ。 「島田から答えろ」 「えーと、さぼり?休憩的な?だよね、山本先輩」 「ええ……まぁ……」 二人で顔を見合わせて笑っているが、俺がいなければ色々始める気だったんだろう。 「山本まで巻き込むな。それに、屋上は立ち入り禁止だって知ってるだろう」 「だってえ、加瀬先輩と会うなら俺と会ってくれってこの人が言うんだもん。僕は悪くない」 そこまでして加瀬と会うのを止めさせたいのかと、呆れて山本を見た。最近の山本は男前が台無しになっている。以前は爽やかでクールだったのに、今はなんというか犬っぽいというか、非常に残念だ。 すると、島田がにやにやしながら俺に近づいてきた。 「熊谷先生、葵君と何かあったの?」 島田が近づいてくるとロクなことがない。 何かあったことを知っているところが余計に鬱陶しい。 「別に……何にもない」 「ふうん。お昼も教室で食べることになったし、葵君は熊谷先生の事を言わなくなったんだよね。聞いてもはぐらかされるだけだし」 島田はさらに続ける。 「熊谷先生は葵君のことが好きでしょ?葵君もたぶん好きだよね。見てて分かるし。 先生と生徒だもんね。おおっぴらには会えないから、葵君可哀想だよね。我慢しなきゃだし、僕なら絶対に耐えられない」 島田はさらに、かわいそーと言ってくねくねしていた。葵が不安になるのは想定内だ。 会って安心させてあげたいのに、連絡を取るにも苦労する始末だから困っているのだが、このガキは痛いとこを突いてくる。 「お前ら、今からでも授業出ろ。邪魔だ。帰れ」 「えぇーー、なんでだよー」 不満を言う島田と山本を無理やり追い出して、誰もいなくなった屋上でゴロンと横になった。 コンクリートの固さが背中に伝わる。 今日は雲の流れが速いようだ。 さて。これからどうしようか。

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