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第51話 熊谷先生の憂鬱5

(熊谷先生語り) 「熊谷先生こそ注意されたほうがいいんじゃないですか。涼しい顔して何かありそうですよ」 「ないない。ないですよ。もてませんし。可愛い生徒に好かれてみたいですけど、そんなことしたらクビですから」 俺も木村先生と同等なのだが、ここで告白する必要はないので、あくまで教師としての考えを述べておく。 「…………そうですか。僕が生徒で、熊谷先生みたいな先生がいたら、好きになっちゃいますけどね」 「じゃあ、俺は青木先生みたいな生徒がいたら、付き合えるってことですね。ははは」 期待していた反応とは真逆に、青木先生は再び真面目な受け答えをし始めた。 「付き合えますよ。どうせなら今からでも構いませんが、熊谷先生さえ良ければですけど」 …………正解の答えが分からない。この人が何を考えているのか全く読めなかった。 「…………ははっ、遠慮……しときます。青木先生、冗談キツイですよ」 「いえいえ僕は本気なんで、いつでも待ってますよ。生徒(こども)は興味ありませんから」 と、青木先生は涼しい顔してサラリと言ってのけたのだ。 正直、男からの告白は気持ち悪いだけで、鳥肌が立つ。なんと罵られても、矛盾していようがいまいが、俺は葵しか興味が無かった。 「そんな怯えた顔しないでください。取って食べたりしませんから」 「………………はあ…………」 自分の恋の矛先ばかりに気を取られていたら、別の罠に引っ掛かってしまいそうになった哀れな国語教師がここにいる。 青木先生の妖艶な笑みに身体が動けないでいると、救いのチャイムが鳴った。 金縛りが解けたみたいに力が抜ける。 このままだったら絶対に逃げられなくなっていた。 「さ、熊谷先生、帰りましょうか……」 青木先生がゆっくり立ち上がって促したので、俺もそれに続いた。 問題が1つ増えた気がする。

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